恋心屋
結局、2時間もゲームセンターで過ごした。


ミツキさんは強かった。


ガンシューティングゲームでは、1回だけ全滅して再び硬貨を投下したが、それからは最後の面まで行った。


しかも全滅したのは、僕のライフが無くなったからだ。


画面を見ながら銃をかまえるミツキさんは、鋭い目つきをした女性に変わっていた。


クリアした後に、ふぅーと息を吐いてこちらを見たときには、さっきまでの目つきとは違って、前のような優しい瞳の色に戻っていた。


「このゲームはやったことはありませんが、ガンシューティングはだいたいどれも同じようなものですから」


冷静に語るミツキさんは、勝ち誇ったような、でも、謙虚さを込めた声で言った。


「意外でしたか?」


「まぁ、女性の方でこういうゲームをして、しかもクリアするひとって見たことないので」


「じゃあ、今初めて見たってことですね」


どこか嬉しそうだ。


「初めての経験っていうのは、大切なことなんだとおもいます」


とても当たり前のことを、当たり前に言った。


ゲームをクリアした女性を見ることが大切だとはおもわない。


でも、ゲームをクリアしたミツキさんを見たことは、大切だったとおもう。
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