黒猫独語
 気安く触んな!

 お婆さんがトイレに立つと、今で嫁と孫が会話をし始めた。そこにはクロもいた。

「お婆ちゃん、だいぶ体が弱くなったみたい」
 小声でそう言うと、
「そうだね」
 と男の子が返事をした。
「こんなこと言いたくないけど、覚悟しておいてね……」
「わかってるよ。でも……」

 ほーお、この二人、婆さんの家族やったんか。
 しかし今の今までちーとも顔見せんと、何しとったんやろ。自分のことで精いっぱいか。

「もしお婆ちゃんになにかあったら、あの猫うちが引き取るんだよね?」
 クロを見ながら、ふと思いだしたように男の子が言った。

 なにい? あいつ、何言ってるんだ。

「そうね」

 おいおい、俺の未来を勝手に決めんな。

 
 と、そこでお婆さんがトイレのドアを開ける音がしたので、会話は中断された。
< 16 / 22 >

この作品をシェア

pagetop