リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「いたいっ いたいですっ」

オニっ
牧野が入浴している隙に体を解そうと、軽いスチレッチをしていたのが運のツキだった。
思いのほか早く風呂をあがってきた牧野は、座って足を伸ばして前屈していた明子を見つけると、目を輝かせて面白がり、手伝ってやると言い出した。
けっこうですと、固辞する明子の言葉などまったく耳を貸さず、なぜか明子と背中を合わせるようにして座り込んだ牧野は、否応もなくまた明子に前屈させると、思いきり、明子の背中に自分の背を乗せるようにして、圧し掛かってきた。

「いたいーっ」
「大丈夫だって。ちゃんと加減してるから」
「ばかーっ いたいーっ」

太腿の裏の引き攣りに明子は涙目になりながら、牧野に痛い痛いと訴えた。

「ほれ。交代してやるよ」

牧野の重圧から解放されて、顔を真っ赤にしてやっと上半身を起こした様子の明子を笑いながら、牧野はその手首を握るとは明子の背に乗せ挙げるように引っ張って、自分の体を舞うに倒し始めた。
明子は仕返しとばかりに、背を預けて胸を反らすようにして体を預けた。

「あー。肋骨が伸びて気持ちいいー」
「だろ。ほれ交代だ」
「うきゃー。おにーっ」
「うるせっ 脹ら脛の裏もちゃんと伸ばせよ」
「痛くてムリー」
「お前、ちょっと体硬いか?」
「普通ですっ 平均ですっ 硬いなんて言われたことないですっ 牧野さんこそ、なんで男のクセにそんなに柔らかいんですか」
「へへへ。いいだろ。ガキのころから柔らかかったぞ、俺」

二度、三度、交互に前屈を繰り返しながらそんな会話を交わし続けて、どちらともなく笑い出して、そのままなし崩し的にストレッチは終わった。
何気なく明子の肩に手を置いた牧野は、凝ってんなーと、驚いたような声をあげた。
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