リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「整体に行きたいです」

ゆるゆるになるまで、揉んでもらいたいです。
自分でもガチガチに固まっていることが判るだけに、明子は肩を回すような運動をした。

「揉んでやるよ」

この間、揉んでもらったしなとそう明子を促して、牧野はソファーに明子を座らせようとする。
いいです、大丈夫ですという明子に、いいから揉ませろと牧野は楽しそうに笑った。

「なんか、ものすごく不穏なものを感じますよ、その顔に」
「そりゃな。あれこれ不穏なこと考えてるからな」

そう言って、わざとらしいほどにたりと笑うその顔に、明子も負けじと盛大なため息を吐き出し辞退を申し出る。

「肩、そんなに凝ってないから、いいです。大丈夫です」
「ウソだよ。そんなに妙なマネしねえから、ほれ、座れって」
「そんなにって」
「少しぐらいさせろよ」

なにか悪巧みを企んでいるような笑みを浮かべて、明子の手を引きながら自分もソファーに座って牧野は、へえっと感心したように声をあげた。

「これ、ベットになるんだ」

背もたれを倒し敷布団が敷かれたソファーに座って、牧野はそんな感触を楽しむようにごろりと寝転がった。

「この間も、けっこう寝心地よかったぞ、ダンボールよりずっとマシだ」
「失礼な。ダンボールなんかと、比較しないでくださいよっ」

けっこう高いやつだったのにと頬を膨らませる明子に、牧野はやっといつもの膨れっ面に戻ったなと楽しそうに笑って、ソファーに座り直すと明子の手を強引に引き寄せた。
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