リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「牧野さん。パセリって、育てるの簡単ですか?」

黙ったままでいると寝てしまいそうだと、明子は牧野に聞いてみようと思っていたことを思い出して、唐突すぎるかなと思いつつ、そんなことを牧野に尋ねた。

「パセリ?」

なんのこっちゃと訝しがりながら、牧野は脳内メモリーからパセリに関する情報を引き出したようだった。

「簡単だよ。種を蒔くには、ちょいと遅いかな。苗を買うなら、春だな」
「さすが、お花やさん」

詳しいですねえ。
寝てしまいそうなのんびりした声で素直に感心する明子に、牧野は面白そうに笑った。

「ウチの庭にあるぞ。いらねえって言ったのに、義妹が勝手に苗を植えていってさ。なんだ? 欲しいのか?」

肩の付け根を親指で押しながらそう尋ねる牧野に、明子は少しだけ顔をしかめながら、よく使うからベランダにあったら便利かなってと、明子は答えた。

「ああ。スコーンにも使ってたな」

なるほどと、牧野は納得したようにその言葉に頷いた。

「あれって、ずっと、生えているんですか?」
「一年草って聞くんだけどな。暖かけりゃ、冬を越すみたいだな。うちの庭のやつは、去年の春に植えたヤツだよ。アゲハの幼虫があれ好きでな。気をつけねえと、いつの間にかもしゃくしゃ食われちまうけど、手間はかからねえから楽だぞ」
「よ、幼虫?!」

いや、だめっ
そう言って首をぶんぶんと横に振る明子に、牧野はけたけた笑い出した。

「そういや、毛虫とか芋虫とか苦手だったっけ、お前」
「ぜったい、無理」

聞くだけでいやと、明子は寒さに震えるように身震いした。
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