リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「シソなんかも、虫つくんですか?」

肩甲骨あたりを撫でるように揉みながら、牧野は明子の質問に答えていく。

「あれは、アブラムシだな。よく付くのは」
「アブラムシも、無理かも」
「大丈夫だって。アブラムシだぞ?」
「いやですよ」

何度も首を横に振り嫌がる明子に、大げさだなあと牧野は笑い続けた。

「米粒より小さい虫だぞ。噛むわけでもなし、手で潰しちまえ」
「触るのがイヤなんですもん」
「だったら、牛乳かけろ。霧吹きで、しゅって」
「牛乳?」

牧野の言葉を不思議がる明子に、牛乳かけると窒息して死んじまうんだよと、牧野は教えた。

「死ぬと茶色くなるから、そしたら、さっと触るだけでボロボロ落ちちまうよ」
「やっぱり触るんじゃないですか。いやですよ。だめです」

パセリも、シソも育てませんと言いきる明子に、バカと牧野は目を細めて笑った。

「俺がとってやるよ。安心しろ」

散々、怖がらせるだけ怖がらせてそう言う牧野に、だったら、最初からそう言ってくれればいいじゃないですかと、明子は頬を膨らませて剥れた。

「虫取ってくださいって、お前が言えよ。バカ」

なんで自分でどうにかすることしか考えないんだよ、この頭はと、面白くなさそうな鼻を鳴らしながら、牧野は明子の後頭部を押した。


(そ、そうか)
(取ってくださいって、お願いすればよかったのか)


考え込んでしまった明子に、首、伸ばそうなと牧野は声をかけて、左手を明子の左肩に乗せ、右手を明子の左側頭部に当てて、首の筋を伸ばす。筋がくぅっと伸びる痛気持ちいい感じに、明子は甘い声で呻いた。
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