リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
牧野の手のひらが明子の肩をポンポンと叩いた。終了の合図かなと、牧野に礼を告げようとした明子の体を、牧野は引き寄せて、自分の足の間に座らせるようにして、腕の中に収めた。
やっと、牧野の手に慣れて緊張が解れたはずの明子の体は、密着してくる牧野の体に、たちまち石のように固まってしまった。
やれやれと、牧野は何度目か判らない苦笑を漏らす。

「なあ、頼むからさ、そんな怖がるなよ」

俺も困るよ。どうすりゃいいんだ?
こういうのダメなのか、ムリなのか、イヤなのかと、明子の機嫌を取るように確かめてくる牧野に、明子は困りながらも首をフルフルと横に振った。

「な、慣れるまで。ちょっと、待ってください」
「早く慣れろ」

明子の答えに仕方ねえなと言いながら、それでもその答えに対しては満足げな表情を浮かべていた。

「鎖骨の周りもほぐしてやるから」

ほれ。
そう言って明子の固まった体を開こうとする牧野の手に、明子は慌てふためいて、その手を払おうとする。

「鎖骨ないからいいです」
「バカ。鎖骨がないわけねえだろ」
「お肉に埋もれてるから見つかりませんっ」
「どれ」

牧野は明子の左手を自分の左手で押さえつけるようにして握り、首に回すようにして伸ばしてきた右手で左の鎖骨があるあたりを指で触った。

「やっ」

ぞくりとくる感触に、その手から逃れようと暴れ出しそうになる明子の体を、牧野は根気強く宥め続けた。

「大丈夫だって。ちゃんとあるじゃねえか。ここに」

左の鎖骨の内側と外側を指で挟んで牧野は押し揉んでいく。

「やっぱり張ってるな。痛くないか?」
「ちょこっと、いたいですけど。大丈夫です」

突然の温もりと、直接肌に触れてくる指に、明子の体からなかなか緊張が消えない。

「大丈夫だから、怖がるなよ」

何度も何度も耳元で囁かれる牧野の甘い声に、息を詰めるように緊張している明子の体から、少しずつだが力が抜けていく。
牧野の体温に馴染んだように、少しずつ少しずつ、腕の中でくつろぎ始めた明子に、牧野は嬉しそうに目尻を下げた。

やがて、明子は甘えるように牧野にその体を預けた。
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