リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「悪かったな。急な話で」

全然、そんな気持ちは込められてはいない声色で、形だけの殊勝な言葉を告げる牧野に、明子は肩を竦めて答えた。

「悪名高い魔の土建会社の実態を、とくと観察してきます」

飄々とした明子の言葉に、牧野は本気の笑い声をあげた。

「やっぱり、お前に任せて正解だったな」

正解なんかじゃないですよ、不正解に決まっていますと、明子は腹の底ではそう反論したが、それを口にはしなかった。
理由は判らないけれど妙に機嫌のいい牧野を、わざわざ狭い車の中で不機嫌にさせることもないと、明子はその言葉を飲み込んだ。

「毎回、すごいことになるって話は聞いていましたけど。それにしても、なにも書かれていない議事録なんて、初めて見ましたよ」

最初の打ち合わせ以降、何も記されていなかった議事録を思い出し、明子は眉をひそめた。


(そりゃ、まあ……)
(議題くらいはあったけれどさ)
(内容はすべて同じ、次回持ち越し)
(あれは、議事録なんて呼べるものじゃないよね?)
(ひどすぎない?)


そんな明子の不信感を嗅ぎ取ったらしい牧野が、顔をしかめながら、じつはなと切り出した。

「原因は、入院中のあのバカにあるらしい」
「へ?」

その名前を口にするのもいやだというように、口を引き曲げている牧野に、明子はやれやれと息を吐いた。
< 110 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop