リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「行ってやってくれ。さすがに、あの打ち合わせに一人で乗り込む度胸は、まだないらしい」
「そうはいってもですね、私なんか行ったこともない客先ですよ? 助太刀できることはないんじゃないかと思いますけどね」
自分の武士という言葉に反応しての明子の言葉に、牧野は楽しそうに笑った。
「まあ。沼田くんまで倒れたら大変なんで、とりあえず、つっかえ棒くらいにはなってきます」
「小杉が了承してくれたと伝えたら、安心してたぞ」
「ですから、そう言われてもですね。私がいたところで、何の役にもたたないと」
「要求を、きっちりと吸い上げてきてくれ。一応、今の段階で君島課長が吸い上げた要求は、昨日の資料にまとめてはおいたけどな。どうも、他の要求もあって、それが吸い上げきれないらしいんだ」
「頑張ってはみますけど。あんまり、期待はしないでくださいね。私も倒れたくはないんで」
「倒れるまで頑張ってこなくていい。ちょっと、風変わりで刺激的な打ち合わせ劇だとでも思って、楽しんで眺めてこい」
牧野のその言葉に、明子はなるほどと頷きながら、昨日から感じていた疑問を牧野にぶつけてみた。
「聞いていいですか? なんで、私なんですか? 君島さんのところだって、人はいますよね?」
「まあ、……、そうなんだけどな」
言うか言うまいか。
ずけずけと物を言う牧野にしては珍しいことだけれど、一瞬だけ、言いよどんで迷いを見せてから「まあ、いずれ、小杉の耳に入るだろうしな」と呟やくと、その経緯を話し始めた。
「吉田係長のチーム、もう一つ、プロジェクトを抱えているだろ。あれ、十二月が納期なんだ」
そう言われて、先月の月例会議での報告を思い返した明子は「そうでしたね」と頷いた。
牧野の下に小林と松山、二人の係長がいるように、君島の下にも二人の係長がいる。
吉田孝夫(よしだ たかお)と島野寛(しまの ひろし)だった。
島野率いるチームは、今、広島の客を担当し、全員がその客先に出向中だった。
明子が勤める会社は、大阪や松本、郡山など、各地に営業所を設けているが、そこはあくまでも営業活動の拠点でありに、システムの設計開発はあくまでも本社の管轄だ。
だから、システム部の社員が遠方の客先に長期出向になることも珍しくなかった。
島野たちも、そういった事情で広島に出向いていた。
そして、件の土建屋は、吉田係長率いるチームが担当していたが、吉田のチームはもう一つ、案件を抱えていた。
それが、牧野が言う十二月が納期となっている仕事だった。
牧野の言葉は続く。
「でな。今が修羅場直前らしい。土建屋は、まだ設計段階だから、もともと、沼田と大塚しか人のアサインしてなくてな」
「まあ、新規の顧客じゃありませんしね。設計なら、二人もいればなんとかなりますね」
「ところが。その大塚が倒れた。倒れた原因はさておき。倒れた」
はいはい、そうですねと、明子は相槌を打ちながら牧野の言葉を耳を傾け続けた。
「今までにも、あそこの仕事やったやつが、体調を崩すことはあったんだけどな。設計の段階で倒れたやつが出たのは初めてだから、他の連中もビビっちまったらしい。大塚は大塚で、見舞いに行った連中に、あそこの仕事はヒドいだのと、ぼやいたらしくてな」
「自分の肝っ玉の小ささ棚上げして、なにをふかしてんです? 大塚さん」
明子の容赦のないその言い様に、牧野も声を上げて笑う。
「そうはいってもですね、私なんか行ったこともない客先ですよ? 助太刀できることはないんじゃないかと思いますけどね」
自分の武士という言葉に反応しての明子の言葉に、牧野は楽しそうに笑った。
「まあ。沼田くんまで倒れたら大変なんで、とりあえず、つっかえ棒くらいにはなってきます」
「小杉が了承してくれたと伝えたら、安心してたぞ」
「ですから、そう言われてもですね。私がいたところで、何の役にもたたないと」
「要求を、きっちりと吸い上げてきてくれ。一応、今の段階で君島課長が吸い上げた要求は、昨日の資料にまとめてはおいたけどな。どうも、他の要求もあって、それが吸い上げきれないらしいんだ」
「頑張ってはみますけど。あんまり、期待はしないでくださいね。私も倒れたくはないんで」
「倒れるまで頑張ってこなくていい。ちょっと、風変わりで刺激的な打ち合わせ劇だとでも思って、楽しんで眺めてこい」
牧野のその言葉に、明子はなるほどと頷きながら、昨日から感じていた疑問を牧野にぶつけてみた。
「聞いていいですか? なんで、私なんですか? 君島さんのところだって、人はいますよね?」
「まあ、……、そうなんだけどな」
言うか言うまいか。
ずけずけと物を言う牧野にしては珍しいことだけれど、一瞬だけ、言いよどんで迷いを見せてから「まあ、いずれ、小杉の耳に入るだろうしな」と呟やくと、その経緯を話し始めた。
「吉田係長のチーム、もう一つ、プロジェクトを抱えているだろ。あれ、十二月が納期なんだ」
そう言われて、先月の月例会議での報告を思い返した明子は「そうでしたね」と頷いた。
牧野の下に小林と松山、二人の係長がいるように、君島の下にも二人の係長がいる。
吉田孝夫(よしだ たかお)と島野寛(しまの ひろし)だった。
島野率いるチームは、今、広島の客を担当し、全員がその客先に出向中だった。
明子が勤める会社は、大阪や松本、郡山など、各地に営業所を設けているが、そこはあくまでも営業活動の拠点でありに、システムの設計開発はあくまでも本社の管轄だ。
だから、システム部の社員が遠方の客先に長期出向になることも珍しくなかった。
島野たちも、そういった事情で広島に出向いていた。
そして、件の土建屋は、吉田係長率いるチームが担当していたが、吉田のチームはもう一つ、案件を抱えていた。
それが、牧野が言う十二月が納期となっている仕事だった。
牧野の言葉は続く。
「でな。今が修羅場直前らしい。土建屋は、まだ設計段階だから、もともと、沼田と大塚しか人のアサインしてなくてな」
「まあ、新規の顧客じゃありませんしね。設計なら、二人もいればなんとかなりますね」
「ところが。その大塚が倒れた。倒れた原因はさておき。倒れた」
はいはい、そうですねと、明子は相槌を打ちながら牧野の言葉を耳を傾け続けた。
「今までにも、あそこの仕事やったやつが、体調を崩すことはあったんだけどな。設計の段階で倒れたやつが出たのは初めてだから、他の連中もビビっちまったらしい。大塚は大塚で、見舞いに行った連中に、あそこの仕事はヒドいだのと、ぼやいたらしくてな」
「自分の肝っ玉の小ささ棚上げして、なにをふかしてんです? 大塚さん」
明子の容赦のないその言い様に、牧野も声を上げて笑う。