リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「いろいろあった離婚だからな」
牧野はそう切り出して、目の前に転がっていた世間話の一つだとでも言うように、自分の離婚について語り出した。
それは、誰かにそうやって話すことで、その痛みを和らげようとしているかのようだった。
明子の目には、そう映った。
だから、明子は静かにその話に耳を傾けた。
「俺も、そこそこデカいダメージ受けたけど、あっちも相当参ったらしい。家財道具とか、運び出せるものは全部、俺が留守している間に運び出して、浮気相手のところに行っておいて、挙句、寂しい思いをさせたからだ、慰謝料を寄越せって。なんだ、そりゃだろ。言われた俺も驚いて、ずいぶんと振り回されたけどな。あちらさんも娘の言い分に驚いて、どうやら俺以上に振り回されたらしい。離婚成立したときには、俺もあちらさんもヘトヘトのボロボロだったよ」
そう一気にしゃべり続けた牧野は、最後にはそのときの疲れが蘇ったのか、やや湿り気を帯びた息を吐きこぼした。
やや強張った、硬い表情だった。
「てっきり、牧野さんの口の悪さが、離婚の原因かと思ってましたよ」
そのまま沈みそうになる雰囲気を払拭したくて、明子は殊更、軽いノリでいつもの憎まれ口を叩いてみせた。
「なんだと。ひでえな」
ちっと、いかにも、忌々しいヤツめという舌打ちをした牧野に、明子はくすりと小さく笑う。
その顔を見て、いつもの牧野に戻ったことが判った。
「これでも、誕生日には花束を買って帰ったり、休みだって、寝ていたいのを我慢して買い物に付き合ったりしたんだけどな。それっぽっちのことじゃ、女の寂しいは埋まらないもんなのかねえ」
サバサバとした口調で、俺には判らんと言う牧野に、明子は気持ち首を傾げて、自嘲的な笑みを浮かべた。
「埋まらないかどうかは、判りませんけど」
そう前置きをして、明子は息を吸い込み、吐き出す息に言葉を乗せた。
「一人が寂しいと言わない女は、かわいげがないと、男は言いますよ」
少しだけ、悔しさが込められた明子のその声に、前を見つめていた牧野の顔が、微かに動いた。
牧野はそう切り出して、目の前に転がっていた世間話の一つだとでも言うように、自分の離婚について語り出した。
それは、誰かにそうやって話すことで、その痛みを和らげようとしているかのようだった。
明子の目には、そう映った。
だから、明子は静かにその話に耳を傾けた。
「俺も、そこそこデカいダメージ受けたけど、あっちも相当参ったらしい。家財道具とか、運び出せるものは全部、俺が留守している間に運び出して、浮気相手のところに行っておいて、挙句、寂しい思いをさせたからだ、慰謝料を寄越せって。なんだ、そりゃだろ。言われた俺も驚いて、ずいぶんと振り回されたけどな。あちらさんも娘の言い分に驚いて、どうやら俺以上に振り回されたらしい。離婚成立したときには、俺もあちらさんもヘトヘトのボロボロだったよ」
そう一気にしゃべり続けた牧野は、最後にはそのときの疲れが蘇ったのか、やや湿り気を帯びた息を吐きこぼした。
やや強張った、硬い表情だった。
「てっきり、牧野さんの口の悪さが、離婚の原因かと思ってましたよ」
そのまま沈みそうになる雰囲気を払拭したくて、明子は殊更、軽いノリでいつもの憎まれ口を叩いてみせた。
「なんだと。ひでえな」
ちっと、いかにも、忌々しいヤツめという舌打ちをした牧野に、明子はくすりと小さく笑う。
その顔を見て、いつもの牧野に戻ったことが判った。
「これでも、誕生日には花束を買って帰ったり、休みだって、寝ていたいのを我慢して買い物に付き合ったりしたんだけどな。それっぽっちのことじゃ、女の寂しいは埋まらないもんなのかねえ」
サバサバとした口調で、俺には判らんと言う牧野に、明子は気持ち首を傾げて、自嘲的な笑みを浮かべた。
「埋まらないかどうかは、判りませんけど」
そう前置きをして、明子は息を吸い込み、吐き出す息に言葉を乗せた。
「一人が寂しいと言わない女は、かわいげがないと、男は言いますよ」
少しだけ、悔しさが込められた明子のその声に、前を見つめていた牧野の顔が、微かに動いた。