リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「で。大塚だ。お前にこの仕事ふることになった原因だ。誰になにを聞いたのか、俺がなにかやらかして、出禁になったと思いこんでるみたいでな」

そうそう、思い出したよというようなノリで、明子にこの仕事を振った経緯を、牧野はまた喋り始めた。


(ああ、そうだったわ)
(それを、尋ねていたんだったわ)


明子も忘れかけていたそれを、牧野は喋り始めた。

「で、吉田係長を焚き付けて、俺を担ぎ出そうと企んだらしい。もう、バカとしか言いようがねえや」
「そんな大塚さんに、のせられた吉田係長も吉田係長ですよ」
「俺が先に課長になったのが、とにかく、気に入らないみたいだからな。あの人も、もう四十過ぎだからな。俺みたいな若僧に抜かれたのが、癪なんだろうよ」
「若僧って。牧野さんだって、そろそろおじさんと呼ばれる年ですよ」

明子の言葉に「うるせっ」と顔をしかめる牧野に明子は笑いながら、それにしてもと考えた。


(職場での男の嫉妬って、ある意味、女のそれより陰湿かも)
(ヤダヤダ)
(まあ、女同士もいろいろあるけどね)


出世に対しての執着などは、微塵も持ち合わせていない明子には、大塚や吉田の言動は理解しがたいものだった。

「別にな、俺は土建屋に行ってもいいんだけどな、俺が行ったら、あちらさんが気詰まりして、打ち合わせの席にも出てこなくなるかもしれねえんだよな。浮気相手の男がな、社長一族の親戚筋でな。三馬鹿も俺の顔を見ると、すごすご退散しちまうんだ」
「わざわざ、波風を立てなくてもいいんじゃないかと。その被害、最終的に受けるのは、君島さんですよ」
「だよなあ。なんで小杉ですら判ることが、判らないのかねえ、あのバカは」
「それが判らない人だから、主任止まりなんですよね?」

牧野さん、自分でそう言ったじゃないですかと、そう続いた明子の言葉に、牧野なくつくつと肩を揺らして笑った。
そんな牧野の笑い声を聞きながら、明子は、ひとつ、盛大に息を吐いた。

事情は判った。
が、どうして、そんなことに、自分が巻き込まれなければならないのか。
それを思うと、ため息しかこぼれてこない。
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