リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「僕が記録を取ってることは、大塚主任だって、もちろん知ってます。隣でいつもノートに書き込んでいるんですから」
沼田がどこからどう話せばいいのだろうかと、いかにも困ったというように顔を顰めながら、ぽつりぽつりと明子に語りだした。
「本人はバレていないと思っているみたいですけど、ときどき、ノートをこっそり見てるようですし。多分、僕が吸い上げている以上のこと、大塚主任は吸い上げていると思いますし」
「そんなに、できる人だったかしら、大塚さん」
淡々と続けられる沼田の言葉に、憮然とした表情はそのままに、明子はそんな言葉を半ば八つ当たり気味に吐き出した。
そんな明子に、沼田は小さく苦笑した。
「牧野さんを基準に、できるできないを判断されたら、大塚主任に限らず、できると評価して貰える人なんて、ほとんどいないんじゃないかと思いますけど」
「あの人は、規格外。ほぼ怪獣です」
人間と比較する気にもならないわよ。
顔をしかめて、明子は忌々しそうにそう言いながら、内心では感心したように沼田を見ていた。
(この子)
(耳と目は、確かだわ)
大塚主任と言う言葉を口にしたとき、沼田のなかにある大塚に対する嫌悪感が感じられた。
決して、快くは思っていないのだろう。それでも、その目を曇らせることなく、沼田は大塚の仕事ぶりを正しく見ているように思えた。
大した子だわと、明子は感心した。
そんなことを考えている明子をよそに、怪獣の表現が面白かったのか、沼田はまた小さく笑った。
「うちのチーム内で言えば、吉田係長よりも、よほど仕事ならできます。その点だけは、君島課長も評価しているはずです。……していた、かな」
「だったら、そもそも、なんで、大塚さんはきちんとした議事録すら残させないで、進捗が遅れまくっているみたいなことを言っているの? なにが目的なの?」
このまま、沼田の自由で喋らせていると、短い休憩時間の中では、聞きたいことすら聞き出せない事態になりそうだわと、そう判断した明子は尋問形式に切り替えた。
この打ち合わせに出て欲しいと牧野に言ってきたことは、いつもの嫌がらせの一環だろうと想像がつく。
けれど、議事録にはなにも残さず、さも難航しているように見せかける理由が、明子には全く想像できなかった。
(そんなことして、なんの得があっていうの?)
(自分の首を絞めるだけなのに)
訝しがっている明子の様子に、沼田は数回、パチクリパチクリと瞬きを繰り返して、吐き出すように言い捨てた。
「手柄を、より大きく見せようとしているんだと思います」
「はあ?」
なんのこっちゃというように、今度は明子が目をばちくりと瞬かせる番だった。
沼田の言葉を、瞬時に理解することができなかった。
沼田がどこからどう話せばいいのだろうかと、いかにも困ったというように顔を顰めながら、ぽつりぽつりと明子に語りだした。
「本人はバレていないと思っているみたいですけど、ときどき、ノートをこっそり見てるようですし。多分、僕が吸い上げている以上のこと、大塚主任は吸い上げていると思いますし」
「そんなに、できる人だったかしら、大塚さん」
淡々と続けられる沼田の言葉に、憮然とした表情はそのままに、明子はそんな言葉を半ば八つ当たり気味に吐き出した。
そんな明子に、沼田は小さく苦笑した。
「牧野さんを基準に、できるできないを判断されたら、大塚主任に限らず、できると評価して貰える人なんて、ほとんどいないんじゃないかと思いますけど」
「あの人は、規格外。ほぼ怪獣です」
人間と比較する気にもならないわよ。
顔をしかめて、明子は忌々しそうにそう言いながら、内心では感心したように沼田を見ていた。
(この子)
(耳と目は、確かだわ)
大塚主任と言う言葉を口にしたとき、沼田のなかにある大塚に対する嫌悪感が感じられた。
決して、快くは思っていないのだろう。それでも、その目を曇らせることなく、沼田は大塚の仕事ぶりを正しく見ているように思えた。
大した子だわと、明子は感心した。
そんなことを考えている明子をよそに、怪獣の表現が面白かったのか、沼田はまた小さく笑った。
「うちのチーム内で言えば、吉田係長よりも、よほど仕事ならできます。その点だけは、君島課長も評価しているはずです。……していた、かな」
「だったら、そもそも、なんで、大塚さんはきちんとした議事録すら残させないで、進捗が遅れまくっているみたいなことを言っているの? なにが目的なの?」
このまま、沼田の自由で喋らせていると、短い休憩時間の中では、聞きたいことすら聞き出せない事態になりそうだわと、そう判断した明子は尋問形式に切り替えた。
この打ち合わせに出て欲しいと牧野に言ってきたことは、いつもの嫌がらせの一環だろうと想像がつく。
けれど、議事録にはなにも残さず、さも難航しているように見せかける理由が、明子には全く想像できなかった。
(そんなことして、なんの得があっていうの?)
(自分の首を絞めるだけなのに)
訝しがっている明子の様子に、沼田は数回、パチクリパチクリと瞬きを繰り返して、吐き出すように言い捨てた。
「手柄を、より大きく見せようとしているんだと思います」
「はあ?」
なんのこっちゃというように、今度は明子が目をばちくりと瞬かせる番だった。
沼田の言葉を、瞬時に理解することができなかった。