リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「や、やめてください。ホントに。これに関しては、仕組んだの、ウチの主任と係長ですから」

頭を下げた明子に、沼田のほうが慌てふためき恐縮する。

「時間なくなっちゃいますから、食べてください」

まだ頭を抱えている明子にそう促して、沼田もまだ手をつけていなかったコッペパンを食べ始めた。


(そ、だね)
(うん)
(落ち込んでる場合、じゃないわね)


気を取り直して、沼田の言葉に頷いた明子は、おから入りの卵焼きを押し入れるように口に放り込んだ。

「ここの仕事してるときに、病人とか、けが人が多いっていうのは、ホントなんです。特に君島課長がリーダーになる前は、ホントに大変だったって。それは牧野さんや笹原部長も認めてますから」

沼田は訥々と喋り続けた。

「君島課長がリーダーになってからも、持病の椎間板ヘルニアが悪化して入院しました人とか、急性盲腸炎とか胆石とかで入院した人がいたから、体調を崩す人が多いって話自体は、あながち嘘でもなくて。なんで、大塚主任の思惑通り、変な噂が広まっちゃいましたけど、それでも『魔の土建会社』なんて、そんな陰口をみんなに叩かれなきゃならないほど、ひどいところじゃないですよ」

そんな陰口が悔しいという表情の沼田を見て、それが本心から出た言葉だということが明子にも判った。


(こういうの、なんていうんだっけ)
(幽霊の正体? 見たり?)
(大塚さん、やってくれたわよねえ)
(なにが『魔の土建会社』よ)
(事情もロクに知らない子たちを、うまく焚きつけて、みんなを振り回して)
(バカ)
(牧野だけじゃなく、君島さんまでこんなことに巻き込むなんて)
(もう)
(バカ、バカバカ)


沼田の話しを聞きながら、軽い眩暈すら覚えるよう脱力感を覚えた明子は、がっくりと肩を落とすように背中を丸めた。
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