リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「でも、結局、その『魔の土建会社』の噂話のせいで、君島課長のとこ、みんな逃げ出しちゃって、それで牧野さんにこんな借り作っちゃってたら、しょうがないでしょうに」

ホントにいつも詰めが甘いんだからと、明子は大塚の手が込んでいる割にはお粗末な企てに、これが何度目になるのか判らない、うんざりとしたため息を吐き出した。
しかし、沼田の言葉があっさりと、明子のその言葉を否定した。

「逃げ出してなんか、いませんよ」

明子はそんな沼田に少しだけ驚いて、首を傾げた。

「どういうこと? 今日の打ち合わせ、誰も出たがらないっていうから、私にこの話しが回ってきたのよ」
「吉田係長が、勝手にそういう話しにしただけですよ。多分、大塚主任と結託して、事のついでに、牧野さんのこと困らせて、手柄をもっと大きくしてやろうって考えたんじゃないですか?」

そんな悪巧みはお見通しだと言わんばかりの沼田の言いように、明子はぽかんと口を開けて沼田を見た。


(どうしよう……)
(もう、食欲が、欠片もなく消えちゃったわよ)
(バカバカしすぎて、哀れになってきちゃったわよ)
(大塚さん)


なんで、私はこんなことに巻き込まれてしまったのかしら、空しい、空しすぎると、明子はまた盛大にため息を吐いた。
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