リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「多分。大塚主任。この打ち合わせは、自分が出るつもりだったんだと思います。もしかしたら、吉田係長も一緒に」

食欲を再起動させることは諦めて、もう、なにを聞いても驚かないぞと、明子はどすんと腰を据えた気分で、沼田との会話を続けた。
普段の無愛想さが嘘のように、今日の沼田はよく喋った。
先週、ずっと昼休みは一緒だったが、それでも、明子はこんなに喋る沼田を見るのは初めてだった。

「吉田さんはともかく、大塚さんは入院中でしょ」
「退院許可は、もう出てるみたいですよ。議事録握り潰して隠し持っていた情報、最大限に利用して表に出すなら、今じゃないですか」
「まあね」
「君島課長が不在のときを狙って、大塚主任と吉田係長でこの現状打開して、二人の株を上げるって計画だったんだと思いますよ」

どうやら、沼田のコッペパンの中身はマーガリンと小倉餡のようだった。
最後の一口を押し込む寸前に見えた断面を、明子はおいしそうだなあと、そんなことをぼんやり考えながら眺めていた。

もう、思考回路がそんな方向にしか動かなくなってきた。
午後、一発ガツンとかましてやるかと張り切っていた気力も、あまりの情けなさに萎えそうだった。

沼田は、まだ訥々と、喋り続けた。
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