リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「でも、とりあえず、大塚さんの差し金で来たわけじゃなさそうだと、判断してもらえたんだ」
いやな気分を払拭しようと、ことさら、明るい表情を作り、明子は茶化した声で沼田にそう問う。
「あの人が知っている、この会社の内情なんて、ホントに表面だけのものだし」
「そうなんだ」
「さっき、お茶を持ってきてくれた人、表向きは社長派の人ですから。社長の奥さんの姪に当たる人なんです」
含みのあるそう言い方に、明子はさらにげんなりとした気分で「ああ、そう」と頷き、疲れきった声で笑った。
もう、自分の会社のドロドロな男たちの話を聞いた後だ。
他所の会社の愛憎劇など、もはやどうでもいいという気分だったが、それでも、なんなの、この会社はと、そう思わずにはいられなかった。
(ドラマだったら、面白そうな話なんだけどねえ)
(面白がって、笑ってやれる気にもなれないわ。今は)
いっそのこと、大企業を舞台にした愛憎渦巻く人間模様を描いた小説でも書いて、文壇デビューでも狙ってみようかしらねえ、などというふざけたことを考えた。そうやって、少しでも現実逃避していないと、やっていられないような気分だった。
「大塚さんじゃ、その表向きのことしか、知らないってこと?」
明子の言葉に、沼田はこくんと、頭を縦にひとつ大きく振った。
「小杉さんは、そういう『裏』も知ってるようだったし。ちゃんと、そういうことを知ってる人に、言い含められてきたんだなって判って。それできる人って限られてるし。牧野さんや課長が警戒しないでいいって言ってくれたのを、信じてもいいんだなって。牧野さんの出入り禁止の件も、ちゃんと知ってるみたいだし。事情、知ってるんですよね、小杉さんも」
「本人から聞いたけど。でも、第二に長くいる人なら、知っていることなんでしょ?」
「事情まで知ってるのは、ウチの課では、君島課長と僕くらいです。二課じゃ、小林さんくらいかもしれません。奥さんの家の人が、ここの会社にいること自体、多分、知ってる人は少ないと思います」
「そうなの? そんなに知られていないことなの?」
沼田のその言葉に、明子の眉がきゅっと寄る。
(箝口令を、敷いたってこと?)
(どうして?)
(でも、確かに、離婚の理由は憶測ばかりで。浮気の事なんて、聞いたこともなかったわね)
不審がる明子の戸惑いには、全く気付かない様子の沼田の言葉が続いてく。
いやな気分を払拭しようと、ことさら、明るい表情を作り、明子は茶化した声で沼田にそう問う。
「あの人が知っている、この会社の内情なんて、ホントに表面だけのものだし」
「そうなんだ」
「さっき、お茶を持ってきてくれた人、表向きは社長派の人ですから。社長の奥さんの姪に当たる人なんです」
含みのあるそう言い方に、明子はさらにげんなりとした気分で「ああ、そう」と頷き、疲れきった声で笑った。
もう、自分の会社のドロドロな男たちの話を聞いた後だ。
他所の会社の愛憎劇など、もはやどうでもいいという気分だったが、それでも、なんなの、この会社はと、そう思わずにはいられなかった。
(ドラマだったら、面白そうな話なんだけどねえ)
(面白がって、笑ってやれる気にもなれないわ。今は)
いっそのこと、大企業を舞台にした愛憎渦巻く人間模様を描いた小説でも書いて、文壇デビューでも狙ってみようかしらねえ、などというふざけたことを考えた。そうやって、少しでも現実逃避していないと、やっていられないような気分だった。
「大塚さんじゃ、その表向きのことしか、知らないってこと?」
明子の言葉に、沼田はこくんと、頭を縦にひとつ大きく振った。
「小杉さんは、そういう『裏』も知ってるようだったし。ちゃんと、そういうことを知ってる人に、言い含められてきたんだなって判って。それできる人って限られてるし。牧野さんや課長が警戒しないでいいって言ってくれたのを、信じてもいいんだなって。牧野さんの出入り禁止の件も、ちゃんと知ってるみたいだし。事情、知ってるんですよね、小杉さんも」
「本人から聞いたけど。でも、第二に長くいる人なら、知っていることなんでしょ?」
「事情まで知ってるのは、ウチの課では、君島課長と僕くらいです。二課じゃ、小林さんくらいかもしれません。奥さんの家の人が、ここの会社にいること自体、多分、知ってる人は少ないと思います」
「そうなの? そんなに知られていないことなの?」
沼田のその言葉に、明子の眉がきゅっと寄る。
(箝口令を、敷いたってこと?)
(どうして?)
(でも、確かに、離婚の理由は憶測ばかりで。浮気の事なんて、聞いたこともなかったわね)
不審がる明子の戸惑いには、全く気付かない様子の沼田の言葉が続いてく。