リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「こちらの人が、その件をわざわざ話題にすることはないし、ウチも、事情を知ってる人たちは口を噤んでますから。やっぱり、あんまり外聞のいい話しじゃないから、みんな黙ってるみたいです」

だから、案外、みんな知らないんですよと続いた沼田の言葉に、そういうことかと明子は納得した。

「僕は、たまたま、ここに一人でいたときに、いきなり知らない人に声かけられて。牧野さんが元気かどうかを聞かれて。よろしく伝えてくださいと言われたんで、牧野さんにその人の名前とその伝言を伝えたら、別れた奥さんのお兄さんだって、教えてくれたんです」

自分が知ることになった経緯をそう説明する沼田に、明子はなるほどねと頷くしかなかった。

「別に隠している訳じゃないんだけど、うっかりすると、土建屋の面目も潰しかねない話だから、賢いやつは口にしたがらないんだって。部長の逆鱗は怖いからなって。だから、なんとなく秘密の話っぽくなっちゃってるんだって、牧野さんは笑ってましたけど」

その言葉に、明子は息が詰まりそうになった。


(牧野メ)
(そんな怖いネタを)
(使わせる気だったのっ)
(何が)
(俺の名前)
(使ってこいよっ)
(バカっ)
(私だって)
(部長の逆鱗は)
(怖いんだからねっ)


このネタに関する取り扱い説明を、すっぽりと省いた牧野に、また明子の腹の底では、怒りのマグマがぐつりぐつりとたぎり始める。
そんな怒りのマグマなど、全く感じていない沼田は、淡々と喋り続けていく。

「でも、課長なんかは、その話を牧野さんから聞いたこと話したら、いい武器を貰ったなって笑ってて。いざってときに、黄門様の印籠みたいに効いてくれるから、賢く使えよって。それで、なんとなく、そういうことかって。部長の逆鱗もあるけど、みんな、いざってときの切り札になるかもって温存してるから、そんなに外に出ない話なんだなって」

明子は、肘を机につき、両手を頬にあたて状態のまま、固まった。


(牧野さん)
(戦うアイテムを)
(寄越せって言ったから)
(ホントに)
(武器くれたの?)


ますます牧野の真意が判らなくなり、毒か、薬か、どっちだろうと、悩む明子を他所に沼田の言葉は続いていく。
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