リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「牧野さん、結婚式を挙げていないから、奥さんの素性は、うちの会社でも、上のほうの人しか知らなかったらしいですよね」
その言葉に、ようやく、その当時の記憶が蘇ってきた。
明子が、牧野の結婚の話を聞いたのは営業部にいたころだった。
社内においては、比較的女性社員率が高い職場ということもあってか、社員の恋話などは瞬く間に流れる。
牧野狙いの女性社員がそこそこいただけに、総務部から流れてきた牧野入籍の一報は、悲鳴とともに瞬く間に駆け巡ったが、その彼女たちの口からも結婚相手についての詳細は、ほとんど語られなかった。
どうやら相手の人は、見合いで知り合った人らしいという、そんなていどの話しか、漏れ聞こえなかった。
「式、挙げてなかったんだ。へえ」
入籍の速報に続く少なく続報の中に、確かに挙式に関するものはなかったように明子も記憶しているが、まさか挙げていないとは思ってもいなかった。
(まあ、人のことをね、とやかく言えた義理ではないけどさ)
(でもさ、この私ですら、結婚式は楽しみにしていたのに)
(よくもまあ、元妻、ガマンしたわね)
ふうんと、明子はなんともなしに頷いた。
その言葉に、ようやく、その当時の記憶が蘇ってきた。
明子が、牧野の結婚の話を聞いたのは営業部にいたころだった。
社内においては、比較的女性社員率が高い職場ということもあってか、社員の恋話などは瞬く間に流れる。
牧野狙いの女性社員がそこそこいただけに、総務部から流れてきた牧野入籍の一報は、悲鳴とともに瞬く間に駆け巡ったが、その彼女たちの口からも結婚相手についての詳細は、ほとんど語られなかった。
どうやら相手の人は、見合いで知り合った人らしいという、そんなていどの話しか、漏れ聞こえなかった。
「式、挙げてなかったんだ。へえ」
入籍の速報に続く少なく続報の中に、確かに挙式に関するものはなかったように明子も記憶しているが、まさか挙げていないとは思ってもいなかった。
(まあ、人のことをね、とやかく言えた義理ではないけどさ)
(でもさ、この私ですら、結婚式は楽しみにしていたのに)
(よくもまあ、元妻、ガマンしたわね)
ふうんと、明子はなんともなしに頷いた。