リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「予定していたそうですけど、奥さんのお祖父さんが亡くなって、延期したとかで。喪が明けたらってことにしたみたいですよ」

明子の考えが伝染したのか、沼田は式を挙げなかった事情を明子に告げた。


(なるほどねえ)
(そういうオチか)


ふむふむと頷きながら聞いていた明子は、「よく知っているわね」と、感心したように沼田を見た。

「牧野さんから、信用されているのね。そんなことまで聞いてるなんて」
「そんなことないですよ。牧野さんは隠すつもりがないから、そういう話も普通にしてくれるんです。昼飯食いながら、木村があれこれとよく聞くんで」

自分にだけが聞いている話じゃないです。
明子の誤解を解こうと、牧野の個人情報の出所を説明する沼田の言葉に、明子も苦笑するしかなかった。


(木村くん)
(君のその、怖いもの知らずの突進ぶり。できたら仕事にのみに発揮してくれないかなあ)


松山あたりは苦笑していたに違いないと、その光景を思い浮かべた明子の頬にも、わずかな苦笑が浮かんだ。

「そろそろ、どうにかしないとマズいかなあ。あの軽い口は」
「まあ、あれが木村のいいところでもありますけど。でも、出入り禁止の話は、さすがにまずかったかなって」

沼田の話を聞きながら、とりとめのないことをグルグルグルグルとさせていた明子の思考回路が、そこでぴたりと停止した。


(そういえば……)
(さっき、沼田くん、すっごい不穏なことを言っていたような……)


明子の苦笑は、そのままひきつり笑いに変わった。
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