リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「その現実に、はたと気付いて。このまま、こんなふうに年とってくのかなあって思ったら、変わらなきゃなあって。で、とりあえず、痩せてみるかって、牧野さん曰くの『また』のダイエットなんて始めてみたけど。それっぽっちのことくらいしか、がんばれるものがないの、今の私。ダメの極みでしょ」
「そんなことないです。木村なんか、小杉さんはすごいって」
「そう? でも、それも今年くらいじゃないかな。すぐに、立場が逆転するわよ。あれも古いから、そろそろ主任くらいにしておくかって、会社からお情けかけてもらったけど。システムから営業、そこから品質管理にいって、支援に行って、またシステムに戻されて。あっちこっち、盥回しされてるのよ、私。知っているでしょ?」


膝の上で握った明子の拳が、小さく震える。
手のひらにぎりりと食い込む爪が、痛かった。

でも、こうして言葉にしたら……

少し、気持ちが楽になったような気がした。
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