リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
-あちらこちらを、盥回しされているお局様なんだって。
-仕様書もロクに書けないんだろ?
-そんなのが、偉そうに指図すんなって感じだよな。


それは、春の大型連休が終わって間もないころのことだった。

明子が近くにいることに気付かず、入社二年目、あるいは三年目あたりの若い社員たちが、明子のことをそんなふうに話していたのを、明子は偶然にも聞いてしまった。

役職に付いている世代の社員たちならば、以前、明子がシステム部にいたことをほとんどの者が知っているが、若い彼らはそのころの明子を知らない。
よその部からやってきた明子が、あれこれ賢しく指示を出したり指導することに、いい気がしなかったのだろう。

入社後数年、システム部で自社開発の製品を勉強をしてから、営業部に異動になるということは珍しいことではない。
しかし、明子の場合は、それを除いても珍しがられる異動が続いた。
どこの部署でも、仕事に手を抜いたつもりはない。
特に、婚約を破棄されたあとは、いっそう仕事には身を入れていたつもりだった。
そんなことを理由に、仕事まで投げ出したくはなかったから。
それでも、上の者の目にはどこかに投げやりに映り、評価に値する仕事をしているようには見えなかったのだろう。
異動の辞令が出るたびに、明子は内心深く落ち込んだりもした。
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