リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「でも、聞いていると面白いですよ。別に、相手を潰そうとしているわけじゃないし。なんか、喧嘩しながら、お互いの無駄を見つけて、削っていくみたいな。端から見てると喧嘩しているように見えますけど、当人たちはそんなつもりはないのかもしれません。予算的にそんなに厳しい条件を出すところじゃないんですけど、それでも、使えるお金にも限度がありますから、抑えられるものはきっちり抑えたいっていうのが本音でしょう、経営者ですから。だから、コスト的な部分では容赦ないんですよ」
「それって、まずは内部の人だけで話して、ちゃんと調整しておくことじゃないの?」
「まあ、そうなんですけど。でも、けっこう、面白いです。いきなり『ソフト屋さんはどう思うよ?』なんて振られると、息が止まりそうになりますけど。相手に言い包められた八つ当たりじゃないんで。ホントに、システム的にそれはどうなんだって、専門家としての意見を聞きたくて振ってくる話なんで、きついけど、いやじゃないです。いい勉強になります」
そう告げる沼田の横顔は、本当に楽しそうだった。
君島があれでもう少しと、そんなふうに沼田のことを惜しむ気持ちが、明子にもようやく判ってきた。
君島が惜しむほど、沼田は優秀なのだということは、まとめられたノートを目にしただけでよく判った。
沼田が聞き取って吸い上げた要求要望は、完璧だった。
今まで、この客を相手に『いい勉強になる』などと言えた社員は、もしかしたら君島と牧野くらいなのではないかと、明子は思う。
化ければ、彼らと肩を並べられるレベルの社員になれるその素養が、沼田には十分にあるのだろう。
だから、沼田の「スピーチ恐怖症」を君島は惜しみ、なんとかしてやりたいと手元においているのだろう。
それが、明子にもようやく判ってきた。
そんなことを考えている明子の耳に、沼田の楽しそうな思い出し笑いが届いた。
「どしたの? なに、笑ってるの?」
「ホントに……、黄門様の印籠でしたね、牧野さん」
その言葉に、明子は午後からの打ち合わせの様子を思い返した。
「それって、まずは内部の人だけで話して、ちゃんと調整しておくことじゃないの?」
「まあ、そうなんですけど。でも、けっこう、面白いです。いきなり『ソフト屋さんはどう思うよ?』なんて振られると、息が止まりそうになりますけど。相手に言い包められた八つ当たりじゃないんで。ホントに、システム的にそれはどうなんだって、専門家としての意見を聞きたくて振ってくる話なんで、きついけど、いやじゃないです。いい勉強になります」
そう告げる沼田の横顔は、本当に楽しそうだった。
君島があれでもう少しと、そんなふうに沼田のことを惜しむ気持ちが、明子にもようやく判ってきた。
君島が惜しむほど、沼田は優秀なのだということは、まとめられたノートを目にしただけでよく判った。
沼田が聞き取って吸い上げた要求要望は、完璧だった。
今まで、この客を相手に『いい勉強になる』などと言えた社員は、もしかしたら君島と牧野くらいなのではないかと、明子は思う。
化ければ、彼らと肩を並べられるレベルの社員になれるその素養が、沼田には十分にあるのだろう。
だから、沼田の「スピーチ恐怖症」を君島は惜しみ、なんとかしてやりたいと手元においているのだろう。
それが、明子にもようやく判ってきた。
そんなことを考えている明子の耳に、沼田の楽しそうな思い出し笑いが届いた。
「どしたの? なに、笑ってるの?」
「ホントに……、黄門様の印籠でしたね、牧野さん」
その言葉に、明子は午後からの打ち合わせの様子を思い返した。