リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
午後の打ち合わせを始める時間になり、勢ぞろいした海千山千の総務部たちに、明子は彼らよりも先に口を開いて「午後はまず、現時点で上がっている要求要望に間違いがないか、漏れがないか、それを確認させてください」と、明るいよく通る声で切り出した。
明子からの申し出に彼らは目を合わせ、午前中、全く意見を言うこともなく、窓際に近い場所にただ座っていた沢木(さわき)という男が「どうぞ」と明子を促した。
牧野情報によれば、この会社では少数派の副社長派で、沼田情報によると、どんな会議でも必ず一人は副社長派なる人物が同席して、こういう場合は必ずその人物が代表して回答するらしい。
誰の思惑かは謎だが、彼らも彼らなりに、この派閥闘争劇が会社の屋台骨を破壊しかねないほど暴走することがないよう、いざという時に抑制力を発揮できる人物を配置しておこうという配慮ぐらいはするらしい。
まずは人事課からと口火を切ったとたん、総務課からこっちが先だと声があがったが、沢木がそれは制した。
そこを揉めだしたら、にっちもさっちも行かなくなる。
それくらいのことは、彼らにも判断はできたらしい。
それでも、反対することなく認めることができず、反対意見を条件反射の如く口にした。
そんな様子だった。
一つ、二つ、人事課から挙げられた要求を口頭で確認していく。
総務課が反対している要求を口にしたとたん、そんなことは認められんと、また総務課から声があがった。
-申し訳ありませんが。まずは人事課の方の要求を確認させてください
そう頭を下げて、また作業に戻るが、一つ、二つと人事部からの要求を挙げていくと、今度は経理課から待ったが入り、明子はまた同じことを彼ら言って頭を下げた。
そして、三回目。
総務課からの反対意見に端を発し、人事課と経理課が結託して抗議を始め、それに人事課が反論していくという、午前中と変わらない口論か再開された。
明子は、小さく息を吐き、隣の沼田を見た。
沼田にも、彼らを止めようという思いはあるらしい。
なにかを口にしようと必至に口を開くが、言葉が出ない。
そんな様子だった。
明子は、右腕に自分の左手を、無意識のうちに置いた。
牧野が、きつく掴んだ場所に、重ね置いた。
それに気づいて、明子の頬に苦笑いが浮かんだ。
(使っちゃおうかな)
(印籠、ほんとに効くかどうか判らないけど、使っちゃいますよ?)
(牧野さん)
にたりと笑い、おぅと答える自信満々の牧野が、明子の心に浮かんだ。
明子からの申し出に彼らは目を合わせ、午前中、全く意見を言うこともなく、窓際に近い場所にただ座っていた沢木(さわき)という男が「どうぞ」と明子を促した。
牧野情報によれば、この会社では少数派の副社長派で、沼田情報によると、どんな会議でも必ず一人は副社長派なる人物が同席して、こういう場合は必ずその人物が代表して回答するらしい。
誰の思惑かは謎だが、彼らも彼らなりに、この派閥闘争劇が会社の屋台骨を破壊しかねないほど暴走することがないよう、いざという時に抑制力を発揮できる人物を配置しておこうという配慮ぐらいはするらしい。
まずは人事課からと口火を切ったとたん、総務課からこっちが先だと声があがったが、沢木がそれは制した。
そこを揉めだしたら、にっちもさっちも行かなくなる。
それくらいのことは、彼らにも判断はできたらしい。
それでも、反対することなく認めることができず、反対意見を条件反射の如く口にした。
そんな様子だった。
一つ、二つ、人事課から挙げられた要求を口頭で確認していく。
総務課が反対している要求を口にしたとたん、そんなことは認められんと、また総務課から声があがった。
-申し訳ありませんが。まずは人事課の方の要求を確認させてください
そう頭を下げて、また作業に戻るが、一つ、二つと人事部からの要求を挙げていくと、今度は経理課から待ったが入り、明子はまた同じことを彼ら言って頭を下げた。
そして、三回目。
総務課からの反対意見に端を発し、人事課と経理課が結託して抗議を始め、それに人事課が反論していくという、午前中と変わらない口論か再開された。
明子は、小さく息を吐き、隣の沼田を見た。
沼田にも、彼らを止めようという思いはあるらしい。
なにかを口にしようと必至に口を開くが、言葉が出ない。
そんな様子だった。
明子は、右腕に自分の左手を、無意識のうちに置いた。
牧野が、きつく掴んだ場所に、重ね置いた。
それに気づいて、明子の頬に苦笑いが浮かんだ。
(使っちゃおうかな)
(印籠、ほんとに効くかどうか判らないけど、使っちゃいますよ?)
(牧野さん)
にたりと笑い、おぅと答える自信満々の牧野が、明子の心に浮かんだ。