リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「別件のほうなら、野木の仕切りで、なんとか回りそうだったんでな、それで仕方なく大塚に土建会社を任せたらしい。沢木さんが、あの若い方は前のときより喋らなくなっているけど、大丈夫なのかと、そう心配されているんだって、君島さんからも聞いていたからな、ちょっと気がかりだったんだけどな。自分から説明するって言ったか。そっか」

君島さん聞いたら喜ぶな。
静かに続いたその言葉を告げる牧野の顔は、嬉しそうにだった。
君島がどれだけの手塩をかけて、沼田を育ててきたのかを、牧野はずっと見ていたのだろうと、明子はその顔を見て想像した。
目を細めて、心底、喜んでいるように笑う牧野の横顔を見て、明子の頬も自然と緩んでいった。

「会議とかでなければ、よく喋りますよね。今日、二人っきりになったら、びっくりするくらい喋りましたよ」
「沼田が?」

牧野の顔に浮かんでいた笑みは凍りついたように固まり、うそだろうという目で明子を見た。

「なんです、その目」
「そんなによく喋ったのか? お前が無理やり聞きだしたんじゃなくて?」
「失礼な。最近、昼休みとか一緒だったから、そんなに緊張しなかったみたいですよ。それに、大塚さんのこととか、誰かに話したかったみたいです。聞いてて、君島さんに放っておけって言われても、沼田くんにしてみれば、やっぱり大塚さんのことは、ストレスだったんだろうなあって。だから、言いたいこと言えて、すっきりした感じでしたよ」

へえっと、感心したように牧野は頷きながら「さすが、小杉」と、意味不明なことを言いつつ立ち上がった。
どういう意味かと明子が聞くよりも先に、ほれ、仕事に戻るぞと牧野は明子を促した。

「時間もねえんだ。残りの愚痴やら文句やらは、時間ができたら聞いてやる」

働き蜂の牧野さんに、そんな時間があるんですかと、いつものように軽く言い返したいところだったが、時間がないというところは紛れもない事実だったので、明子も牧野に続くように立ち上がった。
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