リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
溢れるほどのたっぷりの湯を張った浴槽に、明子は埋まるように身を沈めた。
胸を反らし、肩甲骨をくっつけるように、背中の筋肉を動かす。
岩のような頑固な凝りをゆっくりと解しながら、長い一日だったなあと、明子は深呼吸した。
帰りの車中は、静かなものだった。
会話はあったが、お互いに、今日はもう仕事の話などしたくないという思いがあってか、話していることは、当たり障りのないものばかりだった。
「ああ。そうだ。君島さん、来週の月曜には戻るそうだ」
今度、久しぶりに飯でも食いに行こうだとさ。
部長がそんなことを言付かってきたと、牧野は穏やかな声で明子に告げた。
「君島さん、呑ん兵衛だからなあ」
「飯って言っただろ」
「君島さんの飯は、酒じゃないですか」
「まあな。でも、昔に比べたら、ずいぶん呑まなくなったぞ。まあ、昔みたいに、呑んでいる時間もないんだろうけどな」
「若い子たちも、昔みたいに呑みにいくような子、いませんよね」
「若い子って言うな。まだ、じいさん、ばあさんじゃねえぞ」
「もう三十路過ぎてるんですよ、お互い」
「だから、お前は女じゃねえって言うんだよ。普通、無理してでも、まだ若い子ぶるもんだろが」
「悪かったですね、女じゃなくて」
いーっと舌を出す明子に、牧野はぶさいくな面作るんじゃねえと笑う。
胸を反らし、肩甲骨をくっつけるように、背中の筋肉を動かす。
岩のような頑固な凝りをゆっくりと解しながら、長い一日だったなあと、明子は深呼吸した。
帰りの車中は、静かなものだった。
会話はあったが、お互いに、今日はもう仕事の話などしたくないという思いがあってか、話していることは、当たり障りのないものばかりだった。
「ああ。そうだ。君島さん、来週の月曜には戻るそうだ」
今度、久しぶりに飯でも食いに行こうだとさ。
部長がそんなことを言付かってきたと、牧野は穏やかな声で明子に告げた。
「君島さん、呑ん兵衛だからなあ」
「飯って言っただろ」
「君島さんの飯は、酒じゃないですか」
「まあな。でも、昔に比べたら、ずいぶん呑まなくなったぞ。まあ、昔みたいに、呑んでいる時間もないんだろうけどな」
「若い子たちも、昔みたいに呑みにいくような子、いませんよね」
「若い子って言うな。まだ、じいさん、ばあさんじゃねえぞ」
「もう三十路過ぎてるんですよ、お互い」
「だから、お前は女じゃねえって言うんだよ。普通、無理してでも、まだ若い子ぶるもんだろが」
「悪かったですね、女じゃなくて」
いーっと舌を出す明子に、牧野はぶさいくな面作るんじゃねえと笑う。