リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
頬が。
首筋が。
指が触れている耳が。
瞬く間に、熱く火照り出した。
体が石のように固まって、息の仕方すら明子は判らなくなった。
ほんの数秒が、永遠のようだった。
けれど、横断歩道の信号機が点滅し始めると、牧野のその手は、するりと、何事もなかったように離れていった。
「なんなんですか? いきなり」
少しだけ、上擦っているような声で、それでも、胸の鼓動が伝わらないよう平静を装うため、あえてぶっきらぼうに、明子は牧野にそう尋ねた。
ちらりと、明子を横目で眺め、牧野は小さく肩を竦めた。
「いや。なんとなく、見てみたかっただけだ」
「なんです、それ」
「だから、なんとなくだって」
「セクハラで訴えられますよ」
「訴えるか?」
お前にそんなことはできないだろうと、そんな核心めいたものを秘めているような含みのあるその声に、明子は少しだけ拗ねたように唇を尖らせて、外に目を向けるように顔を背けた。
「その石、なんだ?」
「石?」
「ピアスに、一つだけ使ってるやつ。ダイヤか?」
明子は外を眺めていた顔を、また牧野に向けた。
祖父から贈られたこの人ピアスは、四枚の葉の一つだけに石が入っていた。
「アクアマリンです」
「ふうん。あれか。誕生石だかなんだかって」
「違いますけど。よくそんな言葉、知ってますね」
男のくせにと言いかけた言葉を、明子は飲み込んだ。
なんとなく、その言葉の中に、別れた妻の影が見えたような気がした。
「元かみさんに、指輪を強請られときに聞いた」
案の定のその言葉に、どんな顔でなんと言えばいいのかも判らず、「そうですか」と興味なさげに明子は答えた。
首筋が。
指が触れている耳が。
瞬く間に、熱く火照り出した。
体が石のように固まって、息の仕方すら明子は判らなくなった。
ほんの数秒が、永遠のようだった。
けれど、横断歩道の信号機が点滅し始めると、牧野のその手は、するりと、何事もなかったように離れていった。
「なんなんですか? いきなり」
少しだけ、上擦っているような声で、それでも、胸の鼓動が伝わらないよう平静を装うため、あえてぶっきらぼうに、明子は牧野にそう尋ねた。
ちらりと、明子を横目で眺め、牧野は小さく肩を竦めた。
「いや。なんとなく、見てみたかっただけだ」
「なんです、それ」
「だから、なんとなくだって」
「セクハラで訴えられますよ」
「訴えるか?」
お前にそんなことはできないだろうと、そんな核心めいたものを秘めているような含みのあるその声に、明子は少しだけ拗ねたように唇を尖らせて、外に目を向けるように顔を背けた。
「その石、なんだ?」
「石?」
「ピアスに、一つだけ使ってるやつ。ダイヤか?」
明子は外を眺めていた顔を、また牧野に向けた。
祖父から贈られたこの人ピアスは、四枚の葉の一つだけに石が入っていた。
「アクアマリンです」
「ふうん。あれか。誕生石だかなんだかって」
「違いますけど。よくそんな言葉、知ってますね」
男のくせにと言いかけた言葉を、明子は飲み込んだ。
なんとなく、その言葉の中に、別れた妻の影が見えたような気がした。
「元かみさんに、指輪を強請られときに聞いた」
案の定のその言葉に、どんな顔でなんと言えばいいのかも判らず、「そうですか」と興味なさげに明子は答えた。