リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
-牧野くんが、女の子にあんなふうな言うのも珍しいよね。
-普段、女の子には、もう少し優しい言い方するもんね。
-厳しいこというときあるけど、小杉さんには特にあたりきついよね。


聞く気もなしに聞いてしまった、給湯室で交わされていた先輩女性社員たちのそんな会話に、明子は肩を落とした。
自分でも、そんな気はしていたが、思い違いかもしれないと思っていた。
いや、そう思いたかった。
けれど、傍目から見てもそう見えるということは、思い違いでもなんでもないのだろうと、明子は肩を落とした。
少なくとも、牧野にとっては、自分は優しさをかけてやろうなどど思う相手ではないということなのだと、そう思うしかなかった。

だから、恋心にも似た淡い感情は、封印した。
封印したのだ。
なのに……
封印したのに……



(面白がって、遊ぶなっ)
(バカ牧野っ)


そこに牧野の顔でもあるかのように、明子は水面をばしゃりと叩く。

今でもまだ、残っていた。
きつく、腕を掴まれた痛みも。
耳に触れた指がもたした、こそばゆいような感触も。
なにもかもが、消えずに残っている。


(バカ)
(バカ)
(バカ)
(バカ)
(なにがしたいのよ)
(バカ)


明子はまた膝を抱えるようにして体を丸め、溺れるように、湯の中に体を沈めた。
< 194 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop