リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
沼田と仕事の話をしていると、ときおり、奇妙な視線が自分たちに向けられていることを明子が感じるようになったのは、水曜になったころからだった。
主に、明子から見れば後輩になる数名の若手社員たちが、明子と沼田が話しこんでいる姿を見ては、意味ありげに目配せしあい、含み笑いを浮かべていた。
なんだろうと訝しさを感じつつも、それぞれ別の課に配属されている沼田と明子が一緒に仕事をしていることを、不思議に思いつつ眺めているだけだろうと、すぐに結論付けた。
そんなことに気を回せる余裕は、さすがになかった。
新規の顧客、または新システム導入という案件ではない。
すでに、発注は確約され納期も決まっている。
予算などについては、明子は聞かされてはいなかったが、どうよら客から、この予算内でという具体的な金額が、すでに提示されているようだった。
明子の作った提案書を見て、それが予算の範囲内の作業量かどうかは、君島に代わって部長が判断してくれるらしい。
そういう点を踏まえると、やや特殊なケースの提案書作りだったが、おさえるべきポイントは明確だ。
システムの改修に至った背景や目的と、その効果。
実現に向けての方針や方法、改修の対象とする業務の範囲や、改修後の業務の流れ。
そういったことを明文化して、具体的に顧客に説明し、納得していただくこと。
それができれば、今回のプレゼンは成功だ。
毎日、終電ぎりぎりまで残業はしていたが、不思議と明子の中に疲れはなかった。
仕事が楽しい。
心底、そう思えた。
こんなふうに、一心不乱で仕事にのめりこむことも、明子には久しぶりだった。
その感触が、心地よかった。
気合いを入れる意味合いで、少しばかり化粧にも時間をかけた。
とはいっても、目元にほんの少しだけ色を足したていどのことだったけれど。
マスカラはもともと好きではないので、手が伸びなかった。
お化粧をしているのか、していないのか判らないような化粧ではなくて、ちゃんと手を掛けたことが判る、きちんとしたナチュラルメイクをしていこうと、鏡の前で明子は奮闘した。
服も内勤なので、きっちりスーツで着固めるようなことはなかったが、プレゼンが終わるまでは気持ちを引き締めようと、少しかっちりとしたジャケットの着用を自分に課した。
当然、パンツもインナーも、そのジャケットに合わせたものになった。
ヒールのある靴も履くようにした。
五センチのローヒールの靴を履いていったら、木村は「小杉さん、デカっ」と仰け反って、松山は「いいなあ。僕も、あと五センチくらい、身長が欲しいんだよねえ」と、明子を羨むように見上げていた。
そんな明子に「今日も戦闘靴だな」と、牧野は少し目を細めて笑っていた。
主に、明子から見れば後輩になる数名の若手社員たちが、明子と沼田が話しこんでいる姿を見ては、意味ありげに目配せしあい、含み笑いを浮かべていた。
なんだろうと訝しさを感じつつも、それぞれ別の課に配属されている沼田と明子が一緒に仕事をしていることを、不思議に思いつつ眺めているだけだろうと、すぐに結論付けた。
そんなことに気を回せる余裕は、さすがになかった。
新規の顧客、または新システム導入という案件ではない。
すでに、発注は確約され納期も決まっている。
予算などについては、明子は聞かされてはいなかったが、どうよら客から、この予算内でという具体的な金額が、すでに提示されているようだった。
明子の作った提案書を見て、それが予算の範囲内の作業量かどうかは、君島に代わって部長が判断してくれるらしい。
そういう点を踏まえると、やや特殊なケースの提案書作りだったが、おさえるべきポイントは明確だ。
システムの改修に至った背景や目的と、その効果。
実現に向けての方針や方法、改修の対象とする業務の範囲や、改修後の業務の流れ。
そういったことを明文化して、具体的に顧客に説明し、納得していただくこと。
それができれば、今回のプレゼンは成功だ。
毎日、終電ぎりぎりまで残業はしていたが、不思議と明子の中に疲れはなかった。
仕事が楽しい。
心底、そう思えた。
こんなふうに、一心不乱で仕事にのめりこむことも、明子には久しぶりだった。
その感触が、心地よかった。
気合いを入れる意味合いで、少しばかり化粧にも時間をかけた。
とはいっても、目元にほんの少しだけ色を足したていどのことだったけれど。
マスカラはもともと好きではないので、手が伸びなかった。
お化粧をしているのか、していないのか判らないような化粧ではなくて、ちゃんと手を掛けたことが判る、きちんとしたナチュラルメイクをしていこうと、鏡の前で明子は奮闘した。
服も内勤なので、きっちりスーツで着固めるようなことはなかったが、プレゼンが終わるまでは気持ちを引き締めようと、少しかっちりとしたジャケットの着用を自分に課した。
当然、パンツもインナーも、そのジャケットに合わせたものになった。
ヒールのある靴も履くようにした。
五センチのローヒールの靴を履いていったら、木村は「小杉さん、デカっ」と仰け反って、松山は「いいなあ。僕も、あと五センチくらい、身長が欲しいんだよねえ」と、明子を羨むように見上げていた。
そんな明子に「今日も戦闘靴だな」と、牧野は少し目を細めて笑っていた。