リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「主任?」

黙り込んでしまった明子を、どうしたんだろうと訝しがる木村の声で我に返った明子は、気を取り直して「それで、どうしたの?」と、木村に続きを促した。

「えーとですね。そんなことないですよ。今日は、客先に出てしまっているだけですって。何度も言って、納得はしてくれたみたいなんですけど。なんなんですかね?」
「私に、そう聞かれてもねえ」

木村の話に、明子も眉間に皺を寄せて首を傾げるしかなかった。

「そう言えば、あそこ。保留になってる案件、あったろ?」

明子と木村のやり取りを聞いていた小林が、唐突にそんなことを言い出し、木村に確認するように尋ねた。

「確か、今期の予算が残りそうだったら、頼みたいとかって言ってたやつ」
「あ、はい。あります。なんか、宛名ラベルがどうとか、こうとか」

木村がパソコンを操作しながらなにかに目を通し、そんな答えを小林に返す。
それを聞いた小林が、明子に目を向けた。

「だったら、来週あたり、様子を見に行きがてら、ウチにお仕事くださいって、手を合わせて拝んできます」

小林の言わんとするところを察した明子は、そう言いながら、手を合わせるポーズを作った。

「なにか頼みたいことあって、来て貰いたがっているっぽいですよね。今の感じだと」

小林は明子のその言葉に片手を上げて「助かる、悪いな」と言いながら、顔をくしゃりとさせた。


(ということは、まずは来週の予定を、はっきりさせないとね)
(来週には、君島さん、出て来るって話だったから、土建屋さんは、これで終わりだと思うけど)


そんなことを考えつつ、明子はちらりと牧野にその目を向けた。
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