リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「さっきな。沢木様からお電話を頂いた。今回は、君島課長がこちらの件に専念できないということで、あちらとしては不安もあったそうだが、今日のプレゼンの内容を聞いて安心されたそうだ」
「沼田くんが、あのとんでもない状況で、本当に、がんばってくれましたので」

おそらく状況を把握しているであろう二人に、これでもかと言わんばかりのイヤミを込めて、明子はそう報告をした。


(このぉっ)
(キツネとタヌキめっ)
(いいかげいにしやがれっ)
(成敗してやるっ)


ここに自分たち三人しかいない状況だったならば、目の前にいる二人に向かい、あらん限りの大声でそう詰ってやるところだったが、あいにくなことに、ここには大勢人がいる。
もしもこの場でそんなことをすれば、小林あたりが血相を変えて飛んできて「殿中でござる」とばかりに止めに入ることは明白なので、明子はその欲求を押し留めた。

笹原は明子の言葉に「そうか」と嬉しそうに笑い、沼田に声をかけた。

「沢木様が、お前のことを褒めていたぞ」
「あ、ありがとうございます」

笹原に名を呼ばれ、そう言葉を掛けられた沼田は、勢いよく立ち上がると、深々と頭を下げた。
笹原はもう一度、明子にご苦労だったなと声をかけ「すまんが、俺は本部長に呼ばれているから、詳しい報告は牧野にしておいくれ」とそう告げて、席を立った。

たが、立ち上がってもなお、そこに並び立つ部下二人を、目線を上げて眺めなければならないことに、笹原はため息とともに肩を落とした。

「日本人は、いつから、こんな巨人になったんだ」
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