リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「牧野課長と並んで、ぴったんこじゃないですか、今日なんて」


その言葉に、くすりくすりと笑っていた集団が、笑いを止めた。
正確に言えば、その中心人物が笑いを止めて表情を強ばらせたのを見て、取り巻きも静かになったという感じだった。
そんなことには全く気付いていないような様子で、木村の大きな声の独り言は続いていく。

「牧野課長とちょうどよくぴったんこに並べる人、初めて見ましたもん。その間に割って入るのだけは、絶対にごめんです。割り込みたくないです」

そんな木村を止めたのは、腕を組んで仁王立ちポーズで木村を凄んでいた明子だった。

「木村くん。君、なにげに私を大女と言っているわね」
「えぇーっ そんなんじゃないですよー ぴったんこってー」
「デカいって言っているじゃない。もう、ぜったい、勘弁しないんだからっ、そのお口、懲らしめてやるっ」
「ヒドっ 主任、ひどいですよっ だいたい、この僕からお喋りとったら、なにもないじゃないですかっ 僕の唯一のチャームポイントなのにっ」
「うるせーよ、木村。自分でそれを言うな」

眦に涙を浮かべて笑っていた川田が、さすがにもう限界だったらしく、木村を叱るようにして、静かにしろと釘を差した。
笑いが溢れる室内で、笹原も鼻先で笑いを零した。

「アレは……、鈍いのか、鋭いのか」

牧野と明子にしか聞き取れないような、低い小さな声で笹原はそう呟くと、意味ありげに一瞬だけ、牧野に目を向けた。
牧野は笹原のその視線に、咳払いを一つして、「早く行かないと、本部長に怒鳴られますよ」と、笹原を追い立てた。
明子はそんな二人を、首を傾げながら眺めた。
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