リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
そのまま、なんとなく、明子も牧野と並んで笹原を見送った。
言ってやりたい文句や不満は山ほどあるのに、上手くかわされてしまったわと、一枚も二枚も上手の上司に、明子は肩を竦めるしかなかった。
そうして、牧野への苦情だけは、なにがなんでも言ってやるという決意も新たに、明子は忌々しげに牧野を睨みつけながらその口を開きかけたのだが、まるで、その展開を想定していたかのように牧野のほうが先に口火を切って、明子の言葉を制した。
ーちょい、こっちこい
牧野は小声でそう言うと、明子を従えるようにして席に戻った。
仕方なく、明子もその後に続く。
(文句くらい、言わせろー)
(キツネ男メッ)
見慣れたその背に向かい、明子は心中でそう毒づいた。
牧野は明子が机の上に置いておいたマグカップを見て「サンキュ」と短く一言そう礼を言い、そのマグカップを手に取ると、机の背後の窓から外を眺めるように立った。
‐あまっ
‐うめっ
一口、コーヒーを口に含んだ牧野は、目を細めてそう呟いた。
その表情は、おいしいと、そう明子に伝えていた。
それを見て、甘くして正解だったわねと、明子はひそかに胸を撫で下ろした。
牧野に習い、隣に並んだ明子の耳元に口元を寄せるようにして、牧野は小声で囁いた。
‐本部長が、行ったのか?
牧野のその問いかけに、明子は眉をひそめながら、こくりと頷いた。
牧野が、マジかよ、勘弁しろよと言いたげに、盛大にため息を吐いた。
言ってやりたい文句や不満は山ほどあるのに、上手くかわされてしまったわと、一枚も二枚も上手の上司に、明子は肩を竦めるしかなかった。
そうして、牧野への苦情だけは、なにがなんでも言ってやるという決意も新たに、明子は忌々しげに牧野を睨みつけながらその口を開きかけたのだが、まるで、その展開を想定していたかのように牧野のほうが先に口火を切って、明子の言葉を制した。
ーちょい、こっちこい
牧野は小声でそう言うと、明子を従えるようにして席に戻った。
仕方なく、明子もその後に続く。
(文句くらい、言わせろー)
(キツネ男メッ)
見慣れたその背に向かい、明子は心中でそう毒づいた。
牧野は明子が机の上に置いておいたマグカップを見て「サンキュ」と短く一言そう礼を言い、そのマグカップを手に取ると、机の背後の窓から外を眺めるように立った。
‐あまっ
‐うめっ
一口、コーヒーを口に含んだ牧野は、目を細めてそう呟いた。
その表情は、おいしいと、そう明子に伝えていた。
それを見て、甘くして正解だったわねと、明子はひそかに胸を撫で下ろした。
牧野に習い、隣に並んだ明子の耳元に口元を寄せるようにして、牧野は小声で囁いた。
‐本部長が、行ったのか?
牧野のその問いかけに、明子は眉をひそめながら、こくりと頷いた。
牧野が、マジかよ、勘弁しろよと言いたげに、盛大にため息を吐いた。