リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「知らなかったんですか?」

本当ですかと胡散臭さそうに牧野を見る明子に、俺もさっき知ったんだよと、牧野は小声で抗議した。

「午後になったら、ふらりと部長が戻ってきたんでな、慌てて聞いたら、そう聞かされたんだ」
「もう。プチパニックでしたよ」
「それでもプチか。さすが小杉」

くつくつくつと、また小さく肩を揺らして笑う牧野に、笑い事じゃありませんよと、今度は明子が頬を膨らませて抗議した。

「もう……。沼田くんが頑張ってくれたからいいようなものの」
「上手くやれたんだろ?」
「汗だくでしたけど、昨日みたいに、意地の悪い質問をするような方もいませんでしたしね。沼田くんの話に、なるほどなって感心してましたよ。やっと、自分たちが抱えているホントの問題点が判ったみたいで」
「そっか。君島さんが来たら、話してやれ」

牧野はコーヒーを啜りながら、嬉しそうに目を細めてそう告げて明子に笑いかけ、思い出したように、明子を上から下までじろりと眺めた。
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