リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「しかし、お前。ヒールの高さは、それくらいにしとけよ。まあ、あと五センチくらい高くなっても、俺は余裕で勝てるけどな」
「なんの勝負ですか、それは」
今日の明子は、前回の打ち合わせの時と同じグレースーツを来て、あの夜のように前髪は降ろしたまま、後ろで髪をきれいにまとめていた。
耳には、あのピアスがあった。
すうっと、牧野の目が、そこに引きつけられ、止まった。
その視線に、明子は少しだけ頬を染め、なんですかとたじろいだ。
「だいたいですね。そんなことまで命令しないでくださいよ。面倒くさい」
どんな靴を履こうと私の勝手ですよと、腕を組んで顔をしかめる明子に、牧野はにたりと笑うが、すぐに真顔に戻って明子を見た。
「なんか、言っていたか?」
「……ちょっと、怪談話みたいなものを、一つ、二つ。ポツポツと」
誰という主語を省いての牧野の問いかけを正しく理解した明子は、肩を竦めてそう答えると、牧野は髪を掻き乱した。
そっか、と小さな声で呟いた牧野は、やや考え込んでから、真面目な顔つきで明子を見た。
「この後……」
真剣な面持ちが、そのまま音になったかのような固い声で、そう切り出した牧野は、けれどすぐにその口を噤んだ。
ちらりと肩越しに背後を見て、困ったなというように息を吐いた。
牧野の視線を追うように背後に目を向けた明子は、そこに立つ井上美咲(いのうえ みさき)の姿に、なんだろうと首を傾けた。
「なんの勝負ですか、それは」
今日の明子は、前回の打ち合わせの時と同じグレースーツを来て、あの夜のように前髪は降ろしたまま、後ろで髪をきれいにまとめていた。
耳には、あのピアスがあった。
すうっと、牧野の目が、そこに引きつけられ、止まった。
その視線に、明子は少しだけ頬を染め、なんですかとたじろいだ。
「だいたいですね。そんなことまで命令しないでくださいよ。面倒くさい」
どんな靴を履こうと私の勝手ですよと、腕を組んで顔をしかめる明子に、牧野はにたりと笑うが、すぐに真顔に戻って明子を見た。
「なんか、言っていたか?」
「……ちょっと、怪談話みたいなものを、一つ、二つ。ポツポツと」
誰という主語を省いての牧野の問いかけを正しく理解した明子は、肩を竦めてそう答えると、牧野は髪を掻き乱した。
そっか、と小さな声で呟いた牧野は、やや考え込んでから、真面目な顔つきで明子を見た。
「この後……」
真剣な面持ちが、そのまま音になったかのような固い声で、そう切り出した牧野は、けれどすぐにその口を噤んだ。
ちらりと肩越しに背後を見て、困ったなというように息を吐いた。
牧野の視線を追うように背後に目を向けた明子は、そこに立つ井上美咲(いのうえ みさき)の姿に、なんだろうと首を傾けた。