リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「なにか、ご用ですか?」

牧野が、きつく、やや強ばったよそよそしい声で、美咲にそう問いかけた。


(ああ、牧野さん。苦手なんだ、この子)


その声色で、明子にもそれはすぐに判った。
けれど、美咲はそんなことになどまるで気付いていないように、にっこりと笑みを浮かべ「コーヒーを、淹れ直してきますわ」と、牧野に告げた。

「小杉さんは、まだ、こちらに来て日が浅いから、牧野さんは、コーヒーにはミルクもお砂糖も入れないことをご存じないようね」

その語尾に、明子は思わず目を剥いて、美咲を穴が空きそうなほど眺めた。


(……、ね?)


明子は、パチパチと数回の瞬きを繰り返した。


(ね、って……)
(私に言ってるね?)
(私に対する、ね、だよね?)
(ウルサいこと、言う気はないけどね)
(んー)
(多分ね、私の方が遙かに年上のはず、なんだけど、ね?)


訳の分からないその生命体に、明子の瞬きは止まらなかった。
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