リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「面倒な話をしたあとは、ミルクも砂糖もたっぷりと入れるんです。小杉主任とは付き合いも長いものですから、私の顔を見ただけで、彼女はそういうこともちゃんと察してくれるんですよ」

牧野の言葉に美咲の顔が見る間に強張り「そうだったんですか」と言いながら、明子を忌々しそうに見た。


(ん? なんか、面倒事に、またもや問答無用で巻き込んでません?)
(牧野さん?)
(しかも、私が一番、嫌いなことに)


明子は勘弁してよと、肩を落とした。

「これからは、お飲み物が必要なときは、お声を掛けてください。すぐご用意しますから」

めげることなくとは正にこの事という見本のように、牧野に向けて、またふわりと笑いかける美咲を、明子は言葉もなく見ていた。


(すごいなあ、この子)
(並の神経だったら、今ので十分、撃沈してると思うなあ)
(今までにも、牧野さん狙いの女子はたくさん見てきたけどさ、最強、かもだわ)


美咲に呆れ、半ば唖然としている明子に、美咲は意味ありげな笑みを浮かべた。

「あなたは、沼田さんのことで、お忙しいのでしょう? 牧野さんのことは、私に任せてくれていいわ」

ピクリと、明子の眉尻が跳ねた。


(なんか……)
(妙な言い回し、したよね、今?)
(というか)
(なに?)
(その、とんでもなく勘違いな上から目線)
(なにを、だれに任せろって?)
(いや、まあ、こんな人のことはどうしようとかまわないけどさー)


虫酸が這うような気持ち悪い違和感に、明子は思わず顔をしかめた。
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