リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「と、とにかく、牧野さんのコーヒーは、これからは私が用意するから。あなたは出しゃばらないで」
明子の言葉に、ようやく、仕事のことなど何も判らない自分が、仕事をネタに明子をやりこめようとしても勝ち目がないことを、美咲は理解できたらしい。
悔しそうな顔をしながら、また牧野のコーヒーの件を持ち出して、美咲は明子にそんな宣言をする。
明子は明子で、そんな美咲にうんざりとした息を吐き「お好きにどうぞ」と、またその言葉を返すしかなかった。
(やりたいなら、やればいいじゃない。どうぞ、ご勝手に。こんな子、こてんぱんにやっつけてもいいんだけど、こんなふうに野放しにしてるのって、多分、取締役がなんか圧力かけてるとかなのよね、それをやっつけちゃうのもさあ、というか、なんで私がそれしなきゃならないの、牧野さんがどうにかしてよ、これ、面倒くさい。いい加減に……)
そんなふうに、グダグダグダグダと、途切れることなく、お腹の底で管を巻き続けている明子の耳に、木村の人を和ませる長閑な声が、また聞こえてきた。
「小杉主任が、課長のコーヒーを淹れてくれないと、困るんだけどなあ」
明子たちに向けられていた視線と、沼田に向けられていた視線が、木村に集まっていく。
木村はそんな視線など意に介する様子もなく、大きな独り言を続ける。
「小杉主任が、課長に甘いコーヒーを淹れてくるときって、課長、機嫌は悪くないけど、ちょっとお疲れってときだから、いつもの元気パワーなくて、だから、怒られそうな話しをするチャンスなんだよなあ」
木村の隣に座っている渡辺明人(わたなべ あきと)が、思わずというように吹き出した。
明子の言葉に、ようやく、仕事のことなど何も判らない自分が、仕事をネタに明子をやりこめようとしても勝ち目がないことを、美咲は理解できたらしい。
悔しそうな顔をしながら、また牧野のコーヒーの件を持ち出して、美咲は明子にそんな宣言をする。
明子は明子で、そんな美咲にうんざりとした息を吐き「お好きにどうぞ」と、またその言葉を返すしかなかった。
(やりたいなら、やればいいじゃない。どうぞ、ご勝手に。こんな子、こてんぱんにやっつけてもいいんだけど、こんなふうに野放しにしてるのって、多分、取締役がなんか圧力かけてるとかなのよね、それをやっつけちゃうのもさあ、というか、なんで私がそれしなきゃならないの、牧野さんがどうにかしてよ、これ、面倒くさい。いい加減に……)
そんなふうに、グダグダグダグダと、途切れることなく、お腹の底で管を巻き続けている明子の耳に、木村の人を和ませる長閑な声が、また聞こえてきた。
「小杉主任が、課長のコーヒーを淹れてくれないと、困るんだけどなあ」
明子たちに向けられていた視線と、沼田に向けられていた視線が、木村に集まっていく。
木村はそんな視線など意に介する様子もなく、大きな独り言を続ける。
「小杉主任が、課長に甘いコーヒーを淹れてくるときって、課長、機嫌は悪くないけど、ちょっとお疲れってときだから、いつもの元気パワーなくて、だから、怒られそうな話しをするチャンスなんだよなあ」
木村の隣に座っている渡辺明人(わたなべ あきと)が、思わずというように吹き出した。