リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
頬に柔らかな笑みをたたえている明子の耳元に、牧野はまた唇を寄せ囁いた。


‐話があるから、残っててくれ。


美咲が木村に気を取られている隙をつくようにして、牧野は明子にそう告げた。
明子は美咲に気付かれないていどに眉をひそめて牧野の顔を見たが、牧野はこれで話は終わりだというように残っていたコーヒーを一気に飲み干した。

「木村ー。機嫌はいいけど、元気がない課長と出かけるぞ。松山さんのところの援軍だ」

突然、そんなことを言いだして「ほれ、用意しろ」と言う牧野に、木村はうぎゃーと悲鳴をあげながら、出かける用意をわたわたと始める。

「小林係長。少し出てきます。すいませんが、今日の終礼、お願いします。沼田。今日の議事録、サーバーにあげておいてくれ。戻ってきたら見るから。それができたら今日はあがっていいぞ。たまには定時であがって帰るといい」

木村の独り言でまったりとなった雰囲気を払拭するように、てきぱきと四方八方に飛び始めた牧野の声に、皆、また仕事へとその意識を向けた。



牧野が、ごく自然な動きで、すぅっと、明子に空になったマグカップを差し出した。
明子が、ごく自然な動きで、すぅっと、牧野が差し出すマグカップを受け取った。






その様子に、美咲は悔しそうに顔をゆがめて、明子を睨んだ。
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