リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
金曜日にしては珍しく、残業組が少なかった。
少なくとも、今、第二システム部内にいるのは、小林と明子だけだった。
牧野はまだ戻らず、よその課も含め、残っていた数名の社員は夕飯をとりに外出していた。

明子は小林からのその問いかけに、耳の付け根をポリポリと人差し指で掻きながら「今さらなんですけどね。じつは、あんまりよく知らないんですよね」と、戸惑い混じりの声で正直に打ち明けた。

「挨拶しても返事もないし。だから、会話らしい会話も、今までなくて。どうしてこんな子がウチにいるんだろって、すっと不思議は不思議だったんですけどね。仕事をしている様子もないじゃないですか、あの子。でも、あんまり、根ほり葉ほりあれこれ聞くのもイヤで」
「そっか。言っておけばよかったな。さすがの木村でも、井上のことは、あれこれ話題にしていなかったか」

小林の苦笑交じりのその言葉に、明子も思わず苦笑いを浮かべた。

「このお喋りめって、口を引っこ抜いてやろうかと思うときもあるんですけど。あの口が、けっこう、いいタイミングで、ミラクルを起こすんですよねえ」
「さっきのコーヒーのやつ。俺は爆笑寸前だったよ」

甘いコーヒーを飲んでるときには、木村に来るなって、牧野課長のことだから言うぞ。
これから、牧野と木村の間で繰り広げられるであろうその攻防戦を脳裏に思い浮かべ、明子と小林は笑い続けたが、その笑いが治まると小林は美咲についての話しを始めた。
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