リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
苦虫を潰したような顔で「困ったヒメでなあ」と、小林はこぼす。

「ヒメ?」

眉を中央に寄せる明子に、小林は正体を明かす。

「お嬢様のことだよ。俺らがヒメって言ったら、彼女のことだ」

そういえば、ときどき、ヒメがどうのこうのという会話があったわねと、春からのことを思い返した明子は、なるほどど頷いた。

「なんつーか。牧野も女運が悪いつーか。女難の相でも出てんじゃねえのかって感じなんだけどな」

周りに人がいないことと、話をしているのが明子だという気楽さもあって、小林の口調がくだけた感じになり、牧野の呼び方が『牧野課長』から『牧野』になった。
君島同様に、新人のころから牧野を弟分のように見てきた小林は、明子相手に話しをしていると、つい、地が出てしまうらしく、昔のように牧野のことを気安く『牧野』と呼んでしまうことがよくあった。

「係長。牧野になってますよー」
「よかんべ。牧野で」

明子のそのチャチャに、小林は悪びれた様子もなく笑った。

「俗に言う、一目惚れらしい」
「はあ」
「常務に会いに会社に来たときに見かけたとかなんとか。いい男っていうのも、大変だよな」
「けっこう、腹黒で口の悪い人なんですけどねえ」
「なあ」

明子の言葉に顔を上げた小林は「見た目に騙されんなってんだよなあ」と、楽しそうに笑いながら明子を見た。
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