リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「女の子に振り回されている牧野さんって言うのも、面白そうで見てみたい気もしますけどね」
「……、そんなもん、俺は昔から見てるよ」

明子の言葉に、小林は小さなため息を吐き「ヤツのそんな姿は、もう見飽きた」と呟いた。

「あはは。小林さんや君島さんは、いろいろと見ていそうですね。でも、牧野さんもあんなふうに断らないで、コーヒーくらい、お願いしたらいいのに。あんなにやりたがっているんだし」
「最初は頼んでいたんだよ。コーヒーを淹れてきますって言うヒメに、それじゃ、お願いしますってな」
「はあ」
「不味くて、飲めんらしい」
「……、は?」

小林の言葉が理解できず、明子は思わず小林を凝視した。


(……、コーヒーが、まずい?)


数回、瞬きをしながら小林を見つめた明子は、「まあ、インスタントコーヒーですからね」と頷いた。

「牧野さんのお口には、合わないかもしれませんが」
「あっこさんのコーヒーは飲むだろうが」

あれだってインスタントだろ。
バカか、お前はとでも言いたげに、じろりと小林は明子を睨みつけると、明子はのんきな声で「あー。そうですねえ」と答え、はてと首を傾げた。

「さすがに、小杉のコーヒーにマズいなんて言おうものなら、ただじゃすまないなと、大人の判断をされているってところですかね」
「さあな。本人に聞いてくれ」
「いや、別に。聞くほどのことじゃないし。でも、マズい理由がインスタントじゃないなら、なんなんですか?」
「牧野に言わせると、ヒメはインスタントコーヒーなんて淹れたこともなければ、飲んだこともないんだろうって話だ」
「はあ」
「最初は、色付き水みたいなものを淹れてきたんで、次は少し濃いめでと頼んだら、今度はカップの底に、溶けきれないほどコーヒーが固まっていたらしい。そんなのを三度、四度と繰り返して、キレちまった。自分でやるから、もう結構ですってな」

返す言葉が見つからないと様相で、明子は小林の話を聞いた。


(この世の中には、インスタントコーヒーを淹れるってことすら、したことがない人種がいるのねえ)


しみじみと、そんなことを考えた。
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