リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「普通はな、あれだけ嫌がられれば、脈が無いって諦めそうなもんだろ。でも、なんかとは盲目ってやつで、まったく、判っていないんだ、ヒメ」
「まあ、確かに。そんな感じでしたけど」
「牧野がさ、コーヒーを淹れなおすって言ってきたヒメに、結構ですってぴしゃりと断っただろ。あんな言い方されたら、迷惑がってることくらい判りそうなのに、ヒメさんは、牧野さん、今日もクールで素敵ってくらいにしか思ってねえんだよな」

キーボードを叩いていた明子の手が、小林のその言葉にぴたりと止まった。


(ク、クールで素敵?)
(あの怒りん坊の、毒舌マンが?)
(クール?)


明子は、堪えきれずに吹き出した。

「ない。それ、ない。クールって、牧野さんが、クールって」
「去年までは、今と雰囲気が全然違ったんだよ、牧野」

あははははと笑い転げる明子に、小林が思いがけない話を始めた。

「仕事している間は、笑うことだって、滅多になかったんだ、あいつ」

明子は目をしばしばと瞬かせて、小林を見た。
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