リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「牧野課長なら、お昼を食べてくるって、外に出たけど」

明子のその言葉を聞いた美咲は「だから、車を飛ばしてっていたのに」と、新藤に当たり散らし始めた。

「間に合わなかったら、意味がないじゃない」
「だから、十一時には迎えに行っただろ」

もたもたしていたのは美咲じゃないかと、新藤はやや拗ねたような顔で反論するが、その声に先ほどまでの勢いはない。
これ以上、美咲の機嫌を損ねたくないという思いが、声に滲みまくっていた。

「いいわ。戻ってくるまで、待つわ」

そう言って、空いている席に荷物を置いて座ってしまったらしい美咲に、新藤が勘弁してほしいというように吐いたため息を聞き、明子もつられて肩を落とした。


(牧野さん)
(とりあえず、さっさと、帰ってきてくれないかしら)
(どうにかしてくださいよ、この子たち)


牧野の寝顔を思い出して味わっていた、ふわふわとしていた甘酸っぱい気持ちは、すでに遠くに吹き飛んでいた。
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