リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あぁーっ あたしの、あたしの玉子焼きーっ」

明子はそう叫ぶとともに、頭上の顔を目を剥いて睨みつけた。 

「よし。合格」

そんな明子の神経をさらに逆なでするように、牧野は「美味い、美味い」を繰り返し、その上、他のおかずまで狙ってフォークの先を伸ばしてきた。
明子はそんな牧野から、力ずくでフォークを取り返した。

「なんですかっ、合格ってっ なんで、あたしの玉子焼き、牧野さんに採点されなきゃならないんですかっ」
「食ったから」

しれっとした顔で、悪びれることもなくそう言う牧野に、明子の目はキリキリとつり上がっていった。

「せっかくの休日まで奪ってっ、玉子焼きまで奪うなんてっ、ヒドいっ、鬼っ、悪魔っ、食いしん坊っ」

返せっ、返せっと、駄々をこねる子どものようにわめき続ける明子を見て、牧野は楽しそうにげらげらと笑った。

「食っちまったもんを、返せって言われてもな」
「お昼ご飯、食べてきたんですよねっ、それで、なんで、どうして、人のお弁当を狙うんですかっ」

しかも最後の一切れをっ
ヒドい、ヒドい、ヒドいと、明子は地団駄を踏み鳴らした。

(そりゃ、食欲はなくなっていたけどね)
(残そうかと、考えていたけどね)
(だからって、勝手に食べらるなんて)
(ヒドいっ ヒドいっ ヒドいっ)
(昔から、人のお弁当ばかり狙ってっ)
(泥棒牧野ーっっ)


理不尽すぎると明子は頬を膨らませ、口をへの字に曲げて、牧野への抗議の意を表した。
けれど、いつだって牧野からの不意打ちに、自分はこんなふうに翻弄されてばかりいると思うと、次第に唇は尖り、拗ねているような表情になっていく。


(食べるって)
(判っていたら)
(もっとおいしいやつ)
(作ったのに)


いつのまにか、そんなことをちらりと思っている自分に気付いて、明子は照れ隠しにいっそうふてくされて見せた。
そんな明子を、牧野は楽しそうに見つめ、笑いながらコンビニエンスストアのビニール袋を差し出した。
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