リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「もしかして、出発点、間違えているか、俺?」
「間違えているっていうか、なんていうか、その……、私、昨日の残業中に小林さんから話を聞くまで、井上さんのことは、常務のお嬢さんってことしか知りませんでしたし、あの取り巻きも、いったいなんなんだと、不思議に思いながら眺めていただけでして」
「知ってたんじゃないのか? 知ってて、けん制してくれていたんじゃないのかよ?」
「なんで、自分を盾にしてまで、私が牧野さんを、火の粉から守らなきゃいけないんですかっ」

牧野さん、男の子でしょっと、頬を膨らませる明子に、男の子って年でもないけどなと、牧野は苦笑する。

「知ってたら、わざわざ井上さんの前でそんなことしませんよ。面倒ですもの」
「えー。そこは助けてくれよ」
「いやですよ。助けた結果で、買わなくてもいい反感かって、挙句、私、笑われてるんですよ? 仕様書もロクに書けないお局様だのって。そりゃ、事実ですけど。だからって、言われて平気なわけないじゃありません。なんで、そんなことを、あの子たちに言われなきゃいけないんですか?」

俯いて、明子は歯を噛み縛った。
自分で自分の言った言葉に傷ついているような、そんなどうしようもない泥沼に陥っている感覚だった。

システム部に戻ってはきたものの、SDKがどうのソリューションがどうのと、あれこれ言われても、きょとんとしているしかなかったダメ社員だったけど。
あんなふうに口に出して笑われたら、傷つくくらいには悔しい。

そんな思いが駆け巡り、明子は黙り込んで俯いた。
そのとき、ふうっと、牧野が息を吐く出したのが判った。
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