リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
彼女たちの言葉を否定できる自信など、明子の中には欠片もなかった。
いつも、いつも、なにをどれだけやっても、不安になる。
よしと自分に気合いを入れて、大丈夫、大丈夫だから、できている、できているからと、自分に呪文をかけるように唱え続けて、顔を上げ、前を向いて立っているけれど。
後輩に、大丈夫、大丈夫、これで大丈夫と言いながら、自分を安心させていた。
大丈夫、大丈夫、これで大丈夫と、沼田にも『顔を上げて』『胸を張って』と言い聞かせていたけれど、あれは自分に向けて言っていた言葉でもあった。
自信が、明子を支えてくれているわけではなかった。
強がりが、明子を支えているだけだった。
牧野になら、簡単に笑い飛ばせてしまう言葉だろう。
いや、そもそも牧野に、牧野を不安にさせる言葉を言えるような者など、いないかもしれない。
でも、明子には、踏み固めたと思った足元に、たちまちのうちに修復不可能な深い亀裂をいれてしまう言葉は、至る所に、造作もなく転がっていた。
そのたびに、明子は下を向くしかなかった。

「自信、持てよ」

もう一度、牧野にそう繰り返されても、明子は自信がもてずに目を伏せた。


(そんなことを言われても……)
(もう何年も、仕事にも、自分にも、自信なんてもてないのに)
(ムリですよ)
(わたしは、あなたのようにはなれないもの)


俯く明子に苛立ちながらも、牧野はゆっくりと明子に言い聞かせる。

「なあ。俺、さっき言ったよな。仕様、よくできているって。お前、向いているって」

言っただろうと、確認するようにそう問いかけてくる牧野に、明子は少しだけ顔を上げて、こくりと頷いた。
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