リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
そんな意味はないからと、明子は必死に自分にそう言い聞かせるけれど……
心は正直だった。
火照り出す頬の熱に、明子自身が狼狽えた。

必死に言い聞かせながら、でもと反論する自分がいた。
ホントは期待していたんでしょうと、そう意地悪く問いかける、もう一人の自分がいた。


そう。
期待などしていなかったと、そう言ったらウソになる。
もしかしたら、誘われるかもと、それを心のどこかで期待していたと、明子は意地悪なもう一人の自分に告げた。

スカートを履いていこうか。
デニムのパンツにしようか。
何分も迷った。
迷って、迷って。
見慣れているパンツスタイルのほうがいいだろうと答えを出した。
最近では、滅多なことでは会社に履いていかなくなったスカートを履いていったりしたら、それだけで浮かれている気分を見透かされてしまいそうな気がしたから。

それでも、普段はあまり着ていかないセーターを選んだ。
豊かな胸のふくらみがきれいに見える、お気に入りのセーターを選んだ。

選びながら、考えていたのは、多分、ずっと、牧野のことだ。

期待しちゃいけない。
期待しちゃいけない。
私とあの人の間には。
何もない。
今までも。
これからも。
私とあの人の関係は。
何も変わらない。


そう思っていても、また疼き出してしまった恋心が、期待を抱かせる。
じゅくじゅくじゅくじゅくと。
疼いて。
疼いて。
期待することを、諦めさせてくれない。

だから、こんな誘いにも、鼓動が勝手に早鳴り出す。

そのとき、すうっと牧野の手が伸びて、明子の頬に触れた。
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