リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「調子に乗るなっ なんで、私が牧野さんのお弁当まで作らなきゃならないんですかっ」
「一人分も二人分も一緒だろ。食費なら俺が出すぞ」
「そういう問題じゃありません。図に乗りすぎっ」
「乗っちゃ悪いか? 俺様牧野様の特権だろ。調子に乗りまくるって」
「自分でそれを言うから、いらない敵まで作るんですよ、牧野さんは」
「自分でそれを言えるから、味方も沢山いるんだよ、俺様は」

どうだ、恐れ入ったかと言わんばかりにふんぞり返る牧野に、明子は処置なしとため息を吐き、これ以上相手にしていても時間のムダだと席に戻り、中断していた仕事を取り掛かり始める。
牧野は、机の上の重箱をどうしたものかと、本当に困り果てたと言う顔で、思案していた。

「牧野さん、ぜったい、前世で女の人に悪さばかりして泣かさせてんですよ」

その報いですよと、滅多に見ることのない困っている牧野の顔を見ながら、明子は愉快そうに目を細くして笑う。
そんな明子を一瞥した牧野は、にたりと笑った。

「してやろうか? 悪いこと」

少しだけ、妖しい色を浮かべた目で明子を見つめる牧野に、明子はどきまぎしながら目を反らした。
なまじ整っている顔立ちなだけに、牧野はそういう台詞や顔つきが嫌味なく似合ってしまう。

「なにを言ってるんですか」

バカ。
明子のその小さな呟きに、牧野はふっと息を吐き、笑う。

「さて。お喋りはこれくらいにするか。残り、全部終りそうか?」
「大丈夫です。仕上げていきます」
「悪いな。頼むな」

お互い、口に出せない何かを仕舞い込むように、キーボードを叩き始めた。
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