リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
日曜も、月曜も。
牧野は微塵の躊躇もなく、明子を車に乗せた。
多分、周りが言っているような、深い他意は牧野にはない。
あるはずがない。
牧野と自分は、ただの上司と部下でしかないのだから。
何度も、そうなことを自分に言い聞かせてみても、それでも気持ちが戸惑った。


掴まれた腕が、
触れられた耳朶が、


淡い予感を、明子に抱かせる。
ついて行きたいと願う言う自分と。
諦めなさいと諭す自分と。
二人の自分がせめぎ合い、明子は動けなくなった。

そんな明子の戸惑いの理由が判らない牧野は、仕方ないなというように息を吐くと、二歩、三歩と明子に歩み寄り、ジャケットを脱いだかと思うと、それを明子の肩に掛けた。

「冷えるだろう。羽織っていけよ」

ほれ。行くぞ。
牧野はそう言って踵を返すと、大股で駆け出すように歩きだした。

「話しがあるって言ったろ。飯を食いながら話すからさ。ほら、来いって」

肩越しに明子を見ながら、牧野はずんずんと前を行ってしまう。

「ま、牧野さんっ」

明子は、慌ててそれを追った。


(ジャケット、返さなきゃ)
(着て帰っちゃうわけ、いかないわ)


だから、追いかけていくのよと、自分にそう言い訳する。

前を行く背中から、楽しそうな口笛が聞こえてきた。
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