リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
(どうしよう)


牧野の後を追いかけて来たものの、牧野の車に乗り込む寸前まで明子は迷った。


-早く乗れよ。


牧野にそう促され、明子はその助手席に乗り込んだ。
シートの位置が変わっていないことに、なんとなく喜んでいる自分がいた。

車が走り出しても大人しい明子に、牧野は眉をひそめた、

「どうした? 変だぞ、お前? マジで具合でも悪いのか?」

顔、赤かったもんな。
そう言いながら、伸ばした手で躊躇いなく明子の額に触れた。
ぴくりと、明子の体が跳ね上がった。

「熱はないよな?」
「ありませんよ。健康優良児は風邪なんて引きません」

その手を押しのけるように払った明子は、仕方なさそうに言い訳をした。

「小林さんに、からかわれたんですよ。忘年会、牧野さんが乗せてってくれるって言ったら、珍しいなって」
「珍しい? なにがだよ?」
「あんまり、人を乗せないって有名らしいですよ、牧野さんの車は。沼田くんも驚いていたくらいでしたから」
「へえ。そうなんだ? けっこう、電車組だのが残業で遅くなったときなんて、駅まで乗せて行ったりしてるけどな。木村なんか、何度か家まで送ってるしな」

その言葉に、安堵半分残念半分のため息が出た。


(ほら。やっぱりね)
(本人は、そんなこと意識してないんだってば)
(予想通りじゃない)


期待しすぎていた自分を、もう一人の自分が笑っていた。

「あー。そうか。女性はって意味か。なら、そうかもしれねえな」

唐突に、思い至ったというようにそう言った牧野は、にやりと笑い明子を見た。

「それでか?」

片頬に浮かんだその笑みは、自惚れではなく、自信から浮かんでいる笑みに思え、明子は少しだけ拗ねたような声で言い訳した。
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